名無しのバンド|no name 3話

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 大学へ入学した私は、何かが変わる事を期待していた。早苗に負けないようにと思い、あらゆるサークルを回ってみた。そんな日々が続いてあっという間に三ヵ月が過ぎたけど、私は相変わらずだった。

「はぁ~」

 やりたい事は見つからない……私も、何かに夢中になれたらなぁ……

 頬杖をついていると、講義終了のチャイムが鳴った。

「今日はここまでにします」

 教授がマジックに蓋をしてホワイトボードの掃除を始めると、次々に生徒が教室を後にした。

 今日も終わり……帰ろう

 席を立って廊下へ出る。焦りはなかったけど、物足りなさは感じてた。

 三月の卒業以来、早苗とも会っていない。やっぱり大学が違うと、こんなものなのかな……

「菜緒、またねー!」

「うん、また明日!これからサークル?」


「そう。もうすぐキャンプだからその準備とか色々。菜緒も入りなよー」

「私はいいよー」


「気が向いたらいつでも歓迎するからね!」

「うん、ありがとう。じゃあまたね」

 唯一入ったサークルで出会った女友達。特に何をするでもないワイワイサークルだった。誘ってくれるのは有り難いけど、楽しいだけのサークルに流されるのはなんとなく嫌だった。

 玄関を出た私は、いつものように駐輪場を目指す。三十分自転車をこいで、そこから三十分電車に揺られていつもの駅へ帰るんだけど……あれ?自転車の鍵がない。あ、そっか。さっき自転車貸したから外ポケットに……あった。

 鍵を開けて自転車をこぎ出そうとしたその時、カバンから着信音が鳴った。スマホを取り出すと、早苗からのメールだった。


ーーーーーーーーーーー

今日暇ー?っていうか、
5時にready集合!

ーーーーーーーーーーー


 ご、強引……でも久しぶりの誘いは嬉しいな。だけどreadyか……

 少し迷ったけど、了解っと返事を返して駅へ向かった。駐輪場に自転車を置いて、電車に揺られる事三十分。窓から見える町が、なんだかいつもと違って見えた。

 電車を降りて改札を出ると、正面にあるライブハウスreadyが目に入った。卒業以来か……もっと早苗に誘われるかと思ってたけど、ちょっと意外だったなぁ。

 そんな事を思いながらキョロキョロしていたが、早苗の姿が見当たらない。どこにいるんだろう?さすがに一人でreadyは入れないなぁ。あ……そうだ。

 私が振り返ったのは、自動販売機の横にある例の場所。今日もあの彼はいない。この三ヶ月間、一度も彼を目にする事はなかった。会いたいとは思わないけど、いたら一言言おうと思ってるのに……

 早苗が見当たらないので、とりあえず自販機まで戻ってコーヒーを買った。そのまま噴水周りのベンチへ腰かける。連絡しようかと考えたけど、飲みながら待つ事にした。

 正面には、彼のいた路上ライブの場所が広がる。このベンチに座るのも、あの日以来だ。

 歌かぁ……大学の軽音サークルも行ったけど、結局近寄りがたくて入らなかったなぁ。

 コーヒーをゴクリと飲んだその時、一つの思いが私の動きを止めた。


 人前で歌うって、どんな気分なんだろう……


「菜緒ー!」

 右に目をやると、改札から出てきた早苗が手を振っていた。

「さな…えー?」

「久しぶりぃ!元気だった?」


「元気だけど……」

 早苗のファッションに圧倒されてしまった。膝に穴の空いた黒のジーンズ。白のTシャツには赤文字の英語とドクロがデュエットしてる。両腕にはトゲトゲのリストバンドに見覚えはあるけど、ブルドックが似合うようなトゲトゲネックレスが首にあった。極めつけは、髪が角のように二本生えてるかのように立っていた。


「早苗、また随分と派手になったね……」

「当たり前じゃん。だって私、これからライブだし!」


「え?ライブって……今日も視察かと思ってたんだけど」

「えへへっ」

 驚く私に、早苗は満足げに笑顔で人差し指を上唇に当てた。

「いつバンド組んだの?」

「実は先月。奈緒を驚かそうと思って黙ってたから」

 本当に驚いたけど、早苗の笑顔に私も満足した。

「そっかぁ。で、どんなバンドなの?名前は?」

「名前かぁ……名前ねぇ……」

 あれ?私変な事言ったかな?

 早苗は上を見ながら人差し指を顎へ移動させた。

「まぁ、名無し……かな」

「は?名無し?名無しバンドってなに?」

 立ち上がった私を静止させるかのように、早苗は両手を前に出した。

「ウソウソ。no nameっていうロックバンド。でもこれって名無しでしょ?」

「うん、まぁそうだけど……no name ?」

 再びベンチへ座ると、早苗が隣に座った。

「でもバンドメンバーなんだよね?やったじゃん!」

 喜んだ私の目に、少しへこんだ態度で両脚を前後へバタバタさせる早苗が映った。

「まぁ一応……」

 なんだろう?嬉しくなさそうに見えるけど?

 すると、一度頷いた早苗は両手の反動でベンチから降りた。

「よっと。今日あたしら二番目だからさ、もう少ししたらready中で待っててよ。じゃあこれ、チケット」

「あ、うん、わかった」

 早苗はreadyへ走って行ってしまった。あれでも緊張してるんだろうなぁ。それにしても、気まずそうな顔に名無しのバンド……百聞は一見にしかず!ready行ってみよう。