ライブハウスと孤高のアコギスト|no name 2話

スポンサーリンク

 三ヶ月が経った。あれから私は無事に大学合格。そして卒業の三月を迎えた。式を終えてクラスのみんなにオメデトウを伝えた後、私はグラウンドにある桜の木の下で枝を見つめていた。蕾はまだ、開花には早いみたいだ。

「菜緒~卒業おめでと~!」

 親友の早苗が、ショートカットの髪を揺らしながら卒業証書を手に走ってきた。待っていた私は、軽く手を振って彼女を迎えた。

「おめでとう早苗。笑顔での卒業は、中学生の時と同じだね」

「なによそれ?泣いてた方がカッコイイ後輩男子に声かけられたかな?」

 舌を出す早苗を見ていると、つられて私も笑顔になる。

「それは早苗らしくないから意味ないかも」

「だよねー!」

 早苗はいつもこんな調子。そんな彼女の笑顔が、私は大好きだ。

「ねぇそんな事より菜緒。式も終わったしさ、これからどっか行かない?」

「いいけど、どこいくの?」


「決まってるじゃん!卒業と言えばライブでしょ!」

「それ、決まってないし……」

 断るように振り返った私は、母の待つ駐車場へ歩き出した。すると突然右肩を掴まれ、思わずビクッとしてしまった。

「今日は、断るとかなしだからね」

 早苗、その笑顔は怖い。相変わらずの強引さ……

「わ、わかったよぉ」

「よろしい!」

 早苗は満面の笑みを浮かべた。本当、ここまで中学の頃から変わらないのも珍しい。恩人で親友の誘いだけど……ライブかぁ……

「あ、早苗。どこにライブ見に行くの?」

「ん?何回も誘ったじゃん。駅前のreadyだよ」


「え……」

 readyか……確かに何度も誘われたけど、なんか怖くて行けなかった。ライブハウスのイメージって、不良のたまり場みたいだし……

 並んで歩く早苗をチラッと見ると、卒業証書の入った筒を肩にポンポンと当てながら歩いていた。困ったなぁ……

「奈緒。そんなに嫌がらなくても大丈夫だって。もう高校も卒業したし、今日は菜緒のライブハウスデビューってことで!ね?」

 やっぱり今日は断れそうにない。仕方ないか。早苗と大学では離れちゃうしね……

「はぁ~、わかった。ready行くよ」

「おお~!じゃあ、早速しゅっぱーつ!」

 早苗は筒を持った右手を高く上げて叫んだ。

「このまま行くの?卒業証書持って?」

「あ……じ、じゃあ4時に駅前でね」

 早苗は苦笑いしながら、先に親の下へ行ってしまった。いつも思ったら即行動。それが彼女のいいところなんだけど。だから私は笑顔でいられる。今日という日を迎えられたのは、そんな早苗のおかげなんだ。

 車に乗り込む早苗が私に手を振る。見送った私も母の車に乗り込んだ。学校を出た車は、そのまま自宅に向けて走り出した。横目に映る景色を眺めながら、私は高校を卒業したんだと実感した。

 でも、すぐに早苗との約束を思い出して苦笑いをしてしまった。早苗は、以前から何度かライブハウスへ遊びに行ってた。私は芸能人の歌を聞く程度だけど、早苗はよく他の友達とライブハウスの話をしていた。そういえば早苗の好きな男の子のタイプはパワフルな人かなって思ってたけど、浮く話はなかったなぁ。

 車が家に着き、着替えてお昼を済ませた私はベットで横になった。

 壁にあるデジタル時計を見ながら、待ち合わせは四時に駅前か……と考えていると、少し疲れたのか知らない間に寝てしまった。ハッと起きると時間は三時。服を選び、着替えを済ませた私は自転車に乗って家を出た。

 駅の駐輪場に自転車を置き、改札を出た横にある自動販売機の横で早苗を探した。

 土曜のこの時間は人が多いなぁ。

 ふと鞄からスマホを取り出すと、時間は四時前。その時、私を呼ぶ声が前から聞こえた。

「菜緒ー!こっちこっち~!」

 早苗は、道路を挟んだ歩道から大きく手を振っていた。呼ばれた私の方が恥ずかしい。周りをキョロキョロしていると、あっという間に早苗が側に来た。

「奈緒、お待たせ」

「ううん。待ってないから大丈夫だよ」

 そう言いながら、私はモジモジしていた。何を着て行けばいいのかわからなかったから、私は無難な格好を選んでいた。紺のパーカーにジーパン姿。私なりに一応オシャレしてきたけど、早苗の視線は痛かった。

「菜緒、なんか地味……」

「うっ……だっ、だって何を着ればいいのか聞くの忘れちゃったし……」


「そっかそっか。」

 笑われちゃったけど、結局早苗みたいな服は持ってなかった。黒の皮パンに黒のジャケット。オマケにトゲトゲのリストバンドと腰に鎖って……。早苗がライブを見に行く時は、いつもそんな格好なのかなぁ……

「ならせめて、私みたいに髪型くらいパァっと」

「え~?」

 早苗、それが一番無理だよ。どうすればショートカットの髪がそこまで上がるの?っていうか、私には爆発してるようにしか見えないけど……緑のメッシュはカラースプレー?……そうじゃない!

「いいの!私は地味だって自覚してるから」

 あまりの違いに恥ずかしくなり、私はフードをかぶった。そんな私の顔を、早苗は笑顔で除きこんだ。

「まぁ、菜緒は純情でかわいいタイプだからさ」

「そんなにトゲトゲしく言わないでよ……」

 横を向いて、早苗から視線をそらしてしまった。

「それを言うならわざとらしくでしょ?さ、デビューデビュー」

 早苗は嬉しそうに後ろから私を両手で押す。その勢いで、かぶったフードが後ろへめくれた。そのまま丸型の噴水を横切り、横断歩道の前まで来た時、私は早苗の手を肩から外した。

「まっ、待って早苗。心の準備が……」

「いいからいいから!」

 再び早苗に背中を押される。いざとなると、恐怖心が襲ってきて顔がひきつった。そんな私に構わず、早苗はすごく楽しそう。信号が変わって横断歩道を渡ると、私の目の前に噂のライブハウスreadyの入り口が現れた。この防音扉の向こうは未知の世界……

「早苗、ちょっと待って!」

「にひひ、観念しなさい!」

 早苗は止まる事なく扉のノブを回して押すと、そのまま私の背中を押してreadyの中へ入った。

「おぉ……」

 独特の薄暗さ。ここがreadyか……。恐る恐る進むと、100人程が立って入れるスペースに十数人がざわざわ会話をしていた。左右にある大きなスピーカーは、爆音を想像させる。観客スペースより高くなってるステージには、ドラムセットや大きいアンプが何台か置いてあった。電球色のようなオレンジの光が、ライブ前の静けさを演出してるみたい。なんだか緊張が増してきた。

「あれ?」

 部屋の隅で周りを見回すと、早苗の姿がない。振り返ると、早苗はカウンターで店員と話していた。お辞儀をした早苗がこっちへ来る。

「待ってって言ったのに聞こえなかったの?」

「うん、全然……」


「奈緒。タダでは入れないんだよ?」

 早苗は、短くなった二枚のチケットを左右に振った。

「ごめん……」

 照れるように謝った私は、完全に雰囲気に飲まれていた。ここは異次元の世界。早苗が持ってきてくれたオレンジジュースを飲んでいても、私はボーッと辺りを見ているだけだった。椅子もないから、どこにいればいいのかもわからない。とにかく落ち着かない。

「奈緒、そんなにキョロキョロしなくても大丈夫だって」

「そうだけど……ん?」

 返事をした私は、遠くをぼんやり見つめる早苗の表情が気になった。

「私さ、これからバンド活動しようって思ってるんだ。」

「え?早苗バンドやるの?」


「あれ?意外だった?私さ、キーボードなら誰にも負けない自信あるんだよね」

「キーボード?」


「うん。だから今日は、その視察も兼ねてる。奈緒、気になるバンドがいたらよろしくね」

「うん。よくわからないかもしれないけど」

 早苗は満足そうに笑った。そっか。早苗は吹奏楽部で管楽器をやってたけど、小さい頃からピアノをやってるって言ってたなぁ。それでバンド?私は音楽に詳しくないけど、この格好ってことはパンク系?それでキーボードって事は……う~ん……ジャンルなんてわかんないよぉ。

「早苗」

「なに?」

「今日は視察だからその格好なの?」

「まぁね!っていうか、今日結構人いるなぁ。対バンって誰なんだろ?人気のバンドが出るのかな」


「え?出演者も知らずに来たの?」

「そうだけど、何?」

 
「ううん、なんでもないよ」

 驚く程普通。まぁ早苗らしいけど……

「ほら、菜緒行くよ」

「ちょ、ちょっとぉ。私は後ろで……」


「それじゃアピールにならないでしょ?」

「私はバンドやらないし、ここからでも。って早苗~!」

 両手でガッチリ腕を掴まれ、そのまま前へ連れられた。最前列に着くと、早苗は目を輝かせてステージを見てる。私は「はぁ~」とため息をついた。

 早苗の頼みとはいえ、異次元の最前列はきつい……

 そう思って下を向いていると、ステージからコツコツと足音が聞こえた。頭を上げると、四人の男性バンドが準備を始めていた。

 バンと鳴るドラムの試し打ちに、体がビクッとなる。早弾きするギター音に目が回りそうになる。静かになったと思ってステージを見ると、ボーカルがメンバーと目を合わせて頷き、ニコッと前を向いてマイクを握った。

「皆さんこんばんはー、ダークネスです。まずは俺たちの曲、聞いて下さい……いくぜ!」

 ジャーンと始まったいきなりの爆音で、驚いた私はそのまま固まった。耳がおかしくなりそうで、なにがなんだかわからない。

「うぅ…。」

 思わず頭を抱えて下を向いた。これがライブハウスの音量……

 そんな私に構わず曲は続く。メロディーは全然頭に入らない。ひたすら目をつむる事しか出来なかった。

「どうもありがとう!」

『ワァー!!』


 歓声が聞こえて見上げると、ステージから四人組が退場した。すると、室内はまたオレンジ色に照らされた。静かになった空間に、私はハッと我に返った。

「終わっ……た?」

「ん?何言ってるの?菜緒。まだまだこれからだよ」


「あはは……」

 けろっとしている早苗の顔に、「そうだよね……」と苦笑いしてしまった。

「もう一生分の音楽を聴いた気がするよ」

「何よそれ。奈緒は気合いが足りないんだよ」

 早苗は笑顔で逆立っている前髪を右手でサッと上へ撫でた。ついていけない……早苗には悪いけど外に出よう……

「ごめん早苗。ちょっと外で空気吸ってくる」

 早苗の返事を聞く余裕もなく、私は人と人の間を通って出口へと歩き出した。

「あ、菜緒ー!」

 背中越しに早苗の声が聞こえたけど、足はそのまま扉へ向かっていった。ごめん早苗……と思いながら外に出た私は、駅前の噴水周りにあるベンチへ倒れ込むように座った。

 さすがに休憩……早苗は凄いよ。あの爆音の中でも楽しんでるんだもん。

「はぁ~ふぅ……」

 深呼吸をすると、すごく気持ちが落ち着いた。何度か深呼吸を繰り返していると、喉の乾きに気づいた。何か飲もうと腰を上げたその時、私の耳に音楽が飛び込んできた。

 この声……まさか!

 驚いた私は、自動販売機から五メートル程離れた場所を見た。そこに立っていたのは、約三ヶ月前に初めて見たあの彼だった。

 やっぱりそうだ!まだ路上ライブ続けてたのか……

 あの日から私は、ここを通る度に気にはしていた。でも結局、一度も彼を目撃する事はなかった。

 約三ヶ月ぶりに聞くこの歌。相変わらず切ない歌詞。以前と全く変わらない。

 歌を聞いてる内に、思い出したのはあの日言われた台詞だった。でも、そこまで怒りは感じなかった。三ヶ月という時間のせいもあると思うけど、わからない事が多くて彼を知りたい気持ちの方が大きいのかな?

 ここから冷静に見てると、今は不思議と少し微笑ましく思える。相変わらず、立ち止まる人はいないみたいだけど……


" 生きてる感覚はない。生かされてるだけの日々に、どんな意味があるのかさえわからないまま ”


 これだもんね。でも歌詞はともかく、ギターは上手いしいい声だとは思うんだけど。私にあんなこと言っても続けるって事は、何か他に目的があっての事だと思うけど……さっぱりわからない。

 そう考えながら彼を見つめていると、ジャーンというギター音が響いて曲が終わった。そして彼は、足下に置いてあるペットボトルの水を一口飲んだ。

 もう一度、側で聞いてみようかな……

 そう思った私は、彼の正面にあるベンチへ座ってみた。前奏を弾き終えた彼が歌おうとしたその時、私に気づいたのかギターを触る両手が止まった。

「あのさ……邪魔なんだけど……」

 この冷たい目。ほんっと変わってない。でも私は二回目だから、これくらいは計算済み。

「どうして?」

 私の言葉に、彼は頭をかいた。

「めざわりだから」

 大丈夫大丈夫!

「私はベンチに座ってるだけだもん。邪魔ならあなたが他で歌えばいいでしょ?」

「チッ」

 舌打ちした彼の迫力に、私は一瞬身構えた。すると彼は、芝生に座ってポケットから携帯を取り出した。誰かに電話してる?

「ハッ!」

 私は顔がひきつった。これってヤバイ?逃げた方がいいかもしれない。絶対怖い人が来るパターンだよ。でも私は悪いことしてないし……。

 パニクった私が、立ち上がった彼の姿を見たその時だった。

「君!」

「はっ、はいっ!」

 突然かけられた声に、背筋が勝手に伸びた。男性の声に目を向けると、そこには警察官が立っていた。

「あの……今呼んだのは私ですか?」

「そうだよ。たった今通報があってね。最近駅前での不審者情報が絶えないんだよ」


「不審者!?私がですか?」

「そう。ベンチに座ってるのは君しかいないからね」

 驚いた私は、ニヤつく彼の顔を見た。

「待って下さい!不審者ならあそこに……」

 彼を指差したが、知らんぷりで歩き出してしまった。

「とにかく、そこの署まで来てもらっていいかな?」

「え……」

 警察について行くしかなかった。振り返ると、彼の姿はもうない。駅前にある警察署に入ると、「身分証ある?」と聞かれて学生証を見せた。

「高校三年生か……あれ?もしかして今日卒業式?」

「はい」

 なんだろう?急に笑顔を向けられた。

「俺の母校なんだよ。なんだぁ、君は後輩かぁ」と高笑い。あまりのテンションの違いに、私は呆気にとられた。

「あの~」

「あー、すまんすまん」


「私、不審者なんですよね?」

「多分ね」

 この人大丈夫かな……全然真剣みがないけど。

「いやぁね、さっき駅前のベンチに不審者がいるって通報があったんだよ。男性からね。」

「男性?」

 その瞬間、私は携帯を取り出した彼を思い出した。そういうことか……ムカッ

「私はベンチに座っていただけです!何もしてませんし、そのよくある不審情報ってどんな人なんですか?」

「それがわからないんだよねぇ……まぁ一応仕事だし、またイタズラかと思ったけど、行かない訳にはいかないからさ……」

 気まずそうな警察に、私は呆れた。

「それ多分全て同一人物の嘘です。だからもう帰ってもいいですか?」

「ちょっと待って!一通り記録を取らせてもらうからさ」


「うっ……」

 イラッとしたけど、公務執行妨害なんて言われたら困る。私は時間の無駄だよと思いながらも、仕方なく机のある椅子に座った。

「えーと、それで今日はなぜここに?」

「そこのreadyでライブを見にきました」

 つい無愛想に答えてしまった。本当に頭にくる。ここまでしなくてもいいのに!

 ドンと両拳で机を叩いた私に、ペンをとっていた警察は「おぉ……まぁ落ち着きなさい」とさとした。

「すみませんが、こんな事してても不審者はいませんし意味がありません!早く終わらせて下さい!私はまだライブのとちゅう……」

 戻るのも辛いかも……

「君……ダイジョウ……ブ?」

 不思議そうに見られ、少し恥ずかしくなった。冷静になろうと思い、私は大きく息を吐いた。

「続けて下さい……」

「はぁ……じゃあ続けるけど……」

 それから特に話は徐々に不審情報から雑談に変わった。というより、青春時代の話を一方的に聞かされた。

「それで駆けつけたらさ、倒れてる酔っぱらいが担任だった青木先生だったんだよ。酷いんだぜ?助けに来たのに、あのお前が今では警察官か……とか意外そうに言われてさ。あ、そういえば青木先生ってまだいるの?」

「教頭先生です……」


「そっかぁ。まぁいい思い出だよ」

「あの~」


「え?なに?」

「もういいですよね……」


「あー!ごめんごめん。つい悪いクセが」

 笑ってごまかす警察官の奥にある壁掛け時計を見ると、時間は七時になろうとしていた。私が「では失礼します。」と立ち上がると、真面目な顔で「協力ありがとうございました」と敬礼された。警察署を出るまで見送ってくれた笑顔を見ると、真面目でいい警察官だと思った。

 外はすっかり暗くなり、遊ぶ大人たちが目立つ。マナーモードのままだったスマホを見ると、早苗からの着信が三個並んでいた。readyの前で立ち止まると、まだ中からは音が聞こえる。でも中に入る気になれなかったので、また連絡するねと早苗にメールをして駐輪場へ向かった。

「なんか疲れた……」

 自転車にまたがって再びreadyの前を通りすぎようとしたその時、スマホをいじる早苗を見つけた。早苗は私に気づくと、スマホをポケットにしまって両手を振った。

「奈緒~。どこ行ってたのよー!」

「そこの警察署。不審者扱いされて、ずっと青春話を聞かされてたよ」


「はぁ?なにそれ?」

「いいのいいの。それより早苗のお目当ては見つかったの?」

 早苗は「ダメダメ。不発だったわ」と両手を広げて首を左右に振った。

「そっか。でも早苗ならきっといいメンバーが見つかるよ」

「お?なにその自信」


「だって私、ダメなメンバーなら見る目あるから」

 そう言いながら、私は彼のいた場所を見た。すると、早苗が私の肩に腕を回した。

「なるほどね。奈緒も孤高のアコギストを知ってるのか」

「え!」

 驚いたぁ。あの人って、孤高のアコギストって呼ばれてたんだ……

「アハハ!そっかそっか。だから奈緒は警察署にいたんだね」

「ちょっと待って!まさか早苗も?」


「うん!あいつマジ最低だった。まさか奈緒が同じ目に会うとは思わなかったけど」

「アハハ……そうなんだ……」

 気分は最悪だったけど、目を合わせた早苗と爆笑してスッキリした。

「ハァ~おっかしぃ。」

「本当だよ。でもなんか救われた。早苗ありがとう」


「どういたしまして!」

「いたぁ!」

 早苗にデコピンされ、また二人で笑ってしまった。

「じゃ、私も帰ろうかな」

 そう言った早苗は、ちょっと寂しそうに夜空を見上げていた。四月からは別々の生活。早苗は音大に通う予定。そんな早苗を見つめていると、「ん?」と横目で見られた。

「奈緒、またライブ付き合ってね。連絡するからさ」

「うん。頑張ってみる」


「な~んか的外れな気がするけど。まぁいいか」

 早苗は私の頭をポンと叩いて私と反対方向へ走って行った。

「またね~奈緒」

「うん。またね!」

 走り去った早苗の背中をしばらく見ていた。早苗はやりたい事をやろうとしてる。私もあんな風に夢中になりたい。

「よ~し!がんばろう!」

 私なりに気合いを入れて、自転車をこぎだした。それから早苗と再会したのは、約半年後だった。