ふう船に手紙を添えて

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主導権争い|リミット99話

 カキーン!

(来た!) 


 幸崎(こうさき)の打球が、逆手に出した一奥(いちおく)のグローブの左を襲う。


「うぉ!」


 あまりの打球の速さに、反応が遅れた一奥は後ろへ体勢を崩す。グローブをかすめた打球はそのまま抜けた。一奥は振り返り、「仟(かしら)~!」と叫ぶ。


 走り出した幸崎と、キャッチャーの遠矢(とうや)が見つめる中、セカンドの仟がセンターへ抜けると思われた打球に飛びつく。その姿に、幸崎は走りながらキッと目を細めた。


(セカンドを走らせていた?遠矢のサインプレーか!)


 打球の勢いはほとんど死んでいない。それでも仟は懸命に左腕を伸ばした。


(絶対に捕る!)「あっ!」


 届くと思われた幸崎の打球は、仟のグローブもかすめた。


(よし!抜けた!)


 そう幸崎が思った瞬間、パーン!というグラブ音がグラウンドに響いた。思わず幸崎は立ち止まる。


「なんだと!」


 驚いたその目に映っていたのは、スライディングキャッチしたセンター要(かなめ)の姿だった。


「えへへ、決まっちゃったね」


 立ち上がった要は、そのままマウンドの一奥にノーバウンドで投げた。


「一奥ん!」

「よっしゃ!助かったぜ!要(かなめ)」


 送球を受けた一奥は、左腕を上げながら定位置へ戻る要の背中に向かって叫んだ。


 要の姿を三塁ベンチへと歩きながら見ていた幸崎は、(よく捕ったな!)と、要とグローブを合わせるレフトの白城(しらき)を見ていた。


(セカンドだけではない。センターが破られた場合を考えて、レフトの白城まであらかじめ走っていた……)


 幸崎は、「ワンアウトー!」と西島(せいとう)ナインに笑顔で叫んだキャッチャー遠矢の後ろを通りすぎる。
 

(遠矢(こいつ)は俺の打球を、どこで止めるつもりだったんだろうな……聞いてみたいものだ)


 フッと笑った幸崎は、小走りでベンチへ下がった。そこへバッターボックスへと歩いていた五番の中西(なかにし)が、「嬉しそうだな!」と、笑顔で幸崎に声をかけた。


「そうか?」

「あぁ!やはりお前には、真っ向勝負がよく似合うよ」


 二人はすれ違い、微笑み合った。 


 中西は右バッターボックスに立つと、ピッチャーの一奥にバットを向ける。


「俺もお前を抜いてやる!」

「面白れぇ。ならこういうのはどうだ?」


「ん?」


 振り返った一奥は、「仟~!」と叫ぶと、左手横に振った。その姿にあきれながらも歩き出した仟は、二塁ベース付近で止まった。


 再びバッターボックスの中西を見た一奥は、ニヤリと笑う。


「さぁ、やるか!」

「面白い。来いや!」


 中西がバットを構える。そして目を横へチラッと向けた。


(一・二塁間はがら空き。俺は幸崎みたいに真っ直ぐじゃねぇぞ)


 ロジンを投げ捨て、一奥が振りかぶって初球を投げた。そして一奥は右に動く。しかし、バッターの中西は読んでいた。


(バカめ!そう来ると思っていたぜ!)

 カキン!

(センター前だ!)「なにっ!?」


 中西の打球は、二塁ベース付近にそのまま立っていた仟に止められた。


(一奥はフェイク。セカンドは動いていないか……)「プッ……アハハ!」


 左手でバットをかつぎ、中西は笑いながらベンチへ下がった。仟はセカンドの定位置へ戻り、続く六番の打球は一奥の足下へ飛んだ。


「あらよっと!」


 余裕がありすぎた一奥は、カッコつけながらグローブを右から左へ振って捕球……


「へへっ!」

「ん?」パスッ


「アウト、チェンジ」


 と思われたが、ボールを弾いた。そのままグラブトスの形になり、偶然ファーストの杉浦(すぎうら)のミットに収まった。


「ガハハ。一奥、やるじゃないか!」


 笑った杉浦が一奥にボールを返すが、その表情は苦笑いだった。


「え?ま、まぁね」(おっかしいな……捕ったと思ったんだけど……)


 マウンドにボールを置いた一奥がグローブを見ると、ネット部分の紐が切れていた。


「あー!紐が切れ……いでっ!なにすんだよ!」

「ほれ、行くぞ」


 マウンドに立つ一奥の頭をグローブで叩いた白城は、そのまま一塁ベンチへと通りすぎて行った。


「道具の手入れが甘いんだよ。一奥(アホおく)」

「うるせー!」


 白城を追いかけて、一奥もベンチへ下がる。一奥をからかった白城だったが、思いは一奥と同じだった。


(幸崎(あの)打球の時だ!)


 一奥はベンチに着くと、グローブの上に帽子を乗せてバッティングの準備へ向かおうとした。だが、突然紀香(のりか)監督に呼び止められた。


「一奥、グローブはどうするの?」

「あ!……やべぇ、忘れてた。俺グローブ持ってないんだよなぁ……」


 一奥はベンチメンバーを見渡すが、左投げはセンターの要しかいない。要と目が合うと、『アハハ!』と笑い合ってしまった。


「一奥さん、これ使って下さい」

「お?」


 スポーツバックをごそごそしていた仟が、一奥にグローブ見せた。一奥は仟に駆け寄ってグローブをはめ、「おおー!いいなこれ」と、パンパンと左手で叩いた。


「サンキュー仟。でも、なんで左利きのグローブなんて持ってるんだ?」


 すると、仟は人指し指を顎に当てて上を見た。


「う~ん、そうですね。要の為ですけど、私はどちらでも投げられますから、一応持ってただけです」

「そっか!左で投げてた時あったもんな」


 ネクストへ向かった遠矢は、二人の会話を背中越しに聞きながらクスクス笑っていた。

リズムを崩せ

 三回の表、七番の鶴岡(つるおか)が打席に入る。鶴岡も当然、初球のど真ん中を打った。


 結果はやはりピッチャーライナー。そしてネクストの遠矢が立ち上がった。マウンドの幸崎を見ながらバッターボックスへ向かう。


(リズムを合わせようとすれば、リズムを奪われてピッチャーライナー。リズムなしではタイミングが合わない……なら!)


 ネクストへ向かった一奥を始め、遠矢の姿に西島ベンチは驚いた。遠矢は、左打席に立った。