ふう船に手紙を添えて

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探り合いの序盤|リミット98話

 初回の攻防。アウト6個が全てピッチャーライナーという異様な結果に、観客はざわついていた。一部の高校野球ファンは、川石(かわいし)のリズムリミッター幸崎(こうさき)のリミットを知っている。


 そんな中、スタンドで試合を見つめる愛理(あいり)と舞理(まいり)の姉妹は、あきれ顔と微笑みをグラウンドへ送っていた。


「本当、西島(せいとう)は野球バカよね……リズムリミットを自ら発動させようなんて、今が準決勝だってわかってるのかしら……」

「そうかなぁ?でも愛理(あいり)ちゃんだってそうするんじゃないの?」


「え?う~ん……」


 空を見上げた愛理(あいり)が、そうかもねと言おうとした瞬間だった。愛理(あいり)は、一塁ベンチから聞こえた一奥(いちおく)の明るい声に目を奪われた。


「杉浦(すぎうら)先輩~!普通に打ったらピッチャー返しで終わりだぞ!」


 すると、愛理(あいり)は目を閉じて息を漏らした。


「や~っぱりバカよ」


 シラックマの頭に顎を乗せ、再びグラウンドを見つめる愛理。それを見た隣の舞理は、愛理の口元が揺るんでいる事に気づいて微笑んだ。そんな舞理(まいり)の視線に、愛理(あいり)が気づく。


「ん?どうしたの?」

「ううん、なんでもないなんでもない。それより愛理(あいり)ちゃん、これ……」


「へ?」


 舞理が指差したのは、愛理の両腕で首を絞められ、苦しそうに変形するシラックマだった。愛理は赤らんだ顔でパッと腕を離し、「杉浦打てー!」と叫んでごまかした。


 カキーン!「バカヤロー!」


 ピッチャーライナーに終わった杉浦に、愛理は再び叫ぶ。


「ん?なんだ?」と杉浦(すぎうら)は三塁ベンチ上のスタンドを見たが、首をかしげて一塁ベンチへ下がった。杉浦の結果を一塁ベンチで見ていた仟(かしら)は、隣で座って考えている遠矢(とうや)を見る。


「あの、遠矢さん?何かリズムリミットの攻略はあるのですか?」

「あ!」


「何か閃きました?」


 仟は少し興奮ぎみに腰を浮かせる。遠矢はニコッとして仟を見た。


「神山(かみやま)さんにセーフティバントのサインを出してみない?」

「セーフティバント?ですか?……はい、わかりました」


 仟のサインに、バッターボックスの神山は頷いて構えた。遠矢は前傾姿勢になる。


「これなら、ピッチャーライナーはないよね?」

「はい」


 仟が祈るように見つめる中、神山がセーフティバントをした。


「なにっ!」


 驚いた神山(かみやま)が目にしたのは、ピッチャー正面へ転がってしまった打球だった。ピッチャーの幸崎(こうさき)は楽々処理。それでも懸命に走った神山の頭は、混乱したままだった。


(俺は三塁線を狙ったんだ。リズムリミットは、それでもピッチャー正面へ転がるのか……)


 一塁を駆け抜けた神山が幸崎を見ると、ファーストから返球されたボールを捕りながら不敵に微笑んでいた。


(俺はすでに西島(せいとう)のリズムを奪っている。バントでも合わせやすいと感じているだろうが、それではリズムリミットを超えられない)


 歩いてマウンドへ戻った幸崎を見ていた遠矢と仟の下へ、凡退した神山が戻ってくる。


「あれではリズムリミットは超えられないな」

「そうですね。万が一とは思ったんですけど、甘かったですね」


 遠矢の返事にも頷く。すると、後ろのベンチに座る白城(しらき)の声が三人に響いた。


「神山さん。チマチマやらなくても、打球スピードでセンターへ抜けばいいんすよ」

「白城。お前は一打席目に止められてるじゃないか」


「あれは公式戦一年ぶりの挨拶っす。次は抜く!」


 白城が鋭い視線をマウンドに送った瞬間、ピッチャーの幸崎がこの試合六球目を投げた。


 六番の村石(むらいし)もリズムリミットを超えられず、ピッチャーライナーに打ち取られた。神山に強気な発言をした白城だったが、レフトの守備へ走る表情は厳しいものになっていた。


(やはり幸崎さんのリズムで打たされている以上、自分のスイングはさせてもらえないな……)


 センター要(かなめ)からの送球を捕り、白城は投げ返す。


(それにあの余裕のキャッチングだ。危険を承知で、あれから地獄のようなピッチャー返しの練習を積み重ねたんだろうな。限界を上げたのがよくわかる……)「ん?おい!要!」

「え?」


 ボールをキャッチした白城は、すぐに要を見た。


「なんでアンダースローで投げて……」(待てよ!)


 考える白城に対し、要は「白城(しら)先輩早く~!」と両手を上げて叫んだ。


「ちょっと待ってろ!」


 すると、キャッチャーの遠矢が「ボールバック~!」と叫んだ。その声に、白城はボールを一塁ベンチへ転がす。


「チッ……」
「あ!終わっちゃったぁ」


 要はセンターの定位置へ戻る。そして遠矢は、バッターボックスへ向かう幸崎の姿を目にした。


(打のリズムリミットは発動していないとはいえ、幸崎さんには1発がある。一奥は前に2発叩き込まれたって言ってたし、警戒しなきゃね)

打のリズムリミッター幸崎

 幸崎は、キャッチャーの遠矢に不敵に微笑みながら声をかけた。


「よろしく……リミットリミッター」

「こちらこそ」


 幸崎がバットを構え、一奥は遠矢のサインを待つ。


(どうする?遠矢。こっちはビリビリきてるぜ?)

(190センチの体に鍛えぬかれた筋肉。オマケにゼロスイングだ。せめて狙いがわかれば……)


 遠矢が選んだのは、インコースのカットボール。幸崎は余裕で見逃し、幸崎の姿を見ていた遠矢は苦笑いをした。


(参ったなぁ……きわどく外したつもりなのに、動いたのは目だけだった。でも、幸崎さんの狙いはわかった!)


 遠矢のサインに頷いたピッチャーの一奥が微笑む。


(そういうことか、面白れぇ!)


 二球目、一奥が投球モーションに入る。


「いくぜ幸崎!」


 一奥の左腕が強く振られる。


「抜けるもんなら……抜いてみろ!」