ふう船に手紙を添えて

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準決勝第二試合開幕|リミット97話

 一万を超える観客が、注目の試合を見つめる。両チームキャプテンの神山(かみやま)と幸崎(こうさき)は、ガッチリと握手をした。西島(せいとう)メンバーは一塁ベンチへ下がり、川石(かわいし)ナインは守備につく。


 先攻は西島高校。エースの幸崎が投球練習をする中、一番の要(かなめ)がバッターボックスへ向かった。


「プレイ!」


 球審の右手が上がる。ピッチャーの幸崎の投げたど真ん中に対し、要(かなめ)が初球から強振した。


 打球はピッチャー返し。ライナーで捕った幸崎はニヤつき、バッターの要も微笑んでいた。


 ここまで勝ち上がった試合、幸崎は以前のかわすピッチングだった。しかし、今日の相手は奇跡的な勝ちを重ねてきた因縁の西島高校。幸崎自身本来の姿を思い出すきっかけとなった与えた相手。


 幸崎は初回から、この大会初めてリズムリミットを披露していた。


(これで俺のリズムリミットは条件を満たした。九回27球、全てピッチャー返しで完全試合だ!)


 幸崎は西島ベンチの様子を見る。すると、いい当たりだった要の凡退に臆することなくメンバーたちは微笑んでいた。


 続く二番の仟(かしら)をピッチャー返しに打ち取った瞬間、幸崎は悟る。


(面白い……やはり真っ向勝負を挑んできたか!)


 幸崎がマウンドのロジンを拾うと、バッターボックスに三番の白城(しらき)が入る。キッと幸崎を睨んで構えた白城に対し、ロジンをマウンドに叩きつけた。


 振りかぶった幸崎は、やはりど真ん中のストレートで応える。バッターの白城も初球から責めた。
しかし、


「アウト!チェンジ」


 その痛烈な打球は、みたび幸崎のグローブにライナーに収まる。白城と幸崎は、今の互いを認め微笑み合った。


(白城、1年前の続きを……)

(ここから始めましょう……)


 二人はしばらく目を合わせ、微笑みながらゆっくり歩き互いのベンチへと下がった。


「よっしゃー!いくぜ、遠矢(とうや)!」

「おう!」


 元気にグラウンドへ飛び出し、投球練習を始めたピッチャーの一奥とキャッチャーの遠矢。その姿を、三塁ベンチへ座った幸崎と中西(なかにし)が見ていた。


「どうだ?幸崎」

「そうだな。愛報(あいほう)戦の九回。あれが彼ら二人の本来の姿と思って間違いない。バッターの限界を読むリミットリミッターのキャッチャー遠矢が、今の一奥の力をどこまで引き出せるのか……気になる所ではあるな……」


 幸崎は腕を組み、集中力を上げるように目を閉じた。そして「新田(にった)」と言いながら右を見る。


「なんすか?幸崎さん」

「やはり今日の試合、お前がキーマンになりそうだ」


 すると、二年生である新田は苦笑いをした。


「止めてくださいよ、幸崎さん。MAX162キロのピッチャーなんて、やっぱり俺には打てませんよ……。しかもこんな大事な試合の三番ってだけで緊張しますし。幸崎さんの前は打のリズムリミットの条件だし、俺にはとても……」


 肩を落とす新田の尻を、幸崎は微笑みながら平手打ちした。


「いでっ!」

「お前なら大丈夫だ、自信を持て。この試合で俺の前を打てるのは、お前しかいないんだよ」


 真っ直ぐマウンドを見つめた幸崎を、新田はボーッと見ていた。


「そう……なんすか……いやいや!ますます意味がわかんないんすけど」


 すると新田の肩に、笑顔の中西が右腕を回した。


「お前はいつも通り打てばいいんだよ。おもいきっていけ!」

「はぁ……」


 新田はそのまま幸崎の隣に座り、中西もベンチへ座った。そんな二人を見ていた幸崎は、プレイのかかったマウンドへ目を移す。


(さあ!俺たちも野球を楽しもうじゃないか!)


 一方。幸崎が初回を三球で終えた事を、キャッチャーの遠矢は考えていた。


(勝てば名京(めいきょう)とは連戦になる。斜坂(ななさか)温存に対抗するには、これしかない)


 遠矢のサインに頷いた一奥(いちおく)が投げたのは、130中盤のツーシームの真っ直ぐだった。


 打球がライナーで一奥を襲う。


「うおっ!あぶねぇ……川石グラウンドで打たれたのを思い出すぜ」


 ピッチャー返しを捕った一奥を見たキャッチャーの遠矢は、(よし!)と頷いた。


「チッ……」と悔しがるバッターの姿に、「むっ!」と目を細める三塁ベンチの幸崎。だが、すぐに微笑むと目を閉じた。


(そうだったな……あの時の一奥はスニーカー……球質が違う訳だ)


 そんな幸崎の姿を、キャッチャーの遠矢がマスク越しに横目で見ていた。


(あの時、僕も川石打線は見せてもらいましたからね。リミットリミッターとして、初回から行かせてもらいますよ!)


 続く二番も初球ピッチャー返しに倒れる。それを見た幸崎は、キャッチャー遠矢の狙いに確信を持った。


(一見リズムリミットに見えるこれは、リミットリミッターならではの芸当。明日の決勝を視野に入れ、ギリギリの限界で抑える気か)


 そして、今日三番に入った新田が右打席に立った。


「お願いします」


 ヘルメットのつばを掴み、軽く頭を下げてバットを構えた新田の限界を遠矢が計る。しかし遠矢には、新田から警戒する程の限界の高さを感じなかった。


(ここはリズムリミットの要になる打順……なんだけどね)


 ニコッと笑った遠矢がサインを出すと、それをみたマウンドの一奥は不思議そうな顔をした。


(ん?ど真ん中にツーシームストレートでいいのか?)
「へへっ」


 投げた一奥のボールがど真ん中を襲う。縫い目の浮力を失い、わずかに沈むツーシームのストレート。バッターの新田は空振りした。


「オッケー!一奥」

「ああ!」


 笑顔でボールを捕った一奥を見た一塁ベンチの紀香(のりか)監督は、「ん?」と首をかしげた。


(今の初球、打のリズムリミットとの勝負の為に、遠矢は打たせにいったように見えたんだけど……)


 紀香監督は電光掲示板を見た。


(138キロ……。でもバッターは空振りしたわ。このバッターが幸崎君の前を打つのは……変よね……)


 そんな紀香監督が見つめる中、打のリズムリミットの条件満たそうとしているキャッチャーの遠矢は、打たせようと同じサインを出した。


(今のはこのバッターの限界だったはずなんだけど、空振りは予想外だった。でもまぁ、これまで一奥には我慢させてきたからね……)


 キャッチャーの仕事の中に、ピッチャーに気持ちよく投げさせるという事がある。遠矢はそれを思っていた。


(球数もそうだけど、一奥が一番待ち望んでいる明日の対戦の為にも、今日は一奥の慣れたスタイルでいこう)


 そう決めた遠矢のサインを見た一奥は、「へへっ」と笑って楽しそうに投げた。


「おらバッター!打ってみろー!」


 一奥の気迫に押された新田。バットを出すが、思ったよりボールが来ない。


(チェンジアップ!)「だぁー!」


 体勢を崩されながら打った新田の打球は、フラフラとマウンドの一奥の下へ飛ぶ。一奥は難なくキャッチした。


「いっひっひ。バッター!やるじゃねーか!」

「くっ……」


 ピッチャー返しの球をヒョイっとマウンドに落とし、一塁ベンチへ笑顔で戻る一奥。悔しがるバッター新田の姿とは対照的だった。


 新田が三塁ベンチへ下がる途中、その目にネクストバッターズサークルで立ち上がったまま西島ベンチを見る、幸崎の姿が映った。


「幸崎さん、すみません……ん?」


 目を閉じ、頭を軽く下げた新田が幸崎の顔を見上げると、幸崎は黙ったまま一塁ベンチを見続けていた。


(打のリズムリミットまで真っ向勝負とはな……)「フフッ……」


 幸崎は三塁ベンチへ振り返りながら、新田(にった)の左肩に右手を置いて歩き出した。


「幸崎(こうさき)さん?」

「気にするな新田。まだ初回を終えたばかりだからな。それに……」


 三塁ベンチ前で立ち止まり、再び振り返って一塁ベンチを見た幸崎につられ、新田も一塁ベンチを見る。


 一塁ベンチと幸崎を、(なんだろう……)と交互にチラチラ見ていた新田(にった)の目に、鋭い視線を真っ直ぐ一塁ベンチへ送る幸崎の姿が映った。


「新田(にった)……」

「はっ、はいっ!」


 驚いた新田を見た幸崎は「フフッ」と笑った。


「西島のやろうとしている事は、俺も同じだ。果たしてどちらのリミットが上なのか……楽しみだな」

「あ!はい。そうっすね」


 幸崎と新田はバットとヘルメットを片付け、新田はショートの位置に走る。キャッチャーの中西は、「ほらよ!」と幸崎に帽子を被せてグローブを渡した。

「サンキュー」と言った幸崎と共に、中西もショートにいる新田を見つめる。


「中西。まだアイツは……目覚めないようだな」

「う~ん……そうだなぁ……」


 二人はグラウンドへ歩きだした。

新田のリミット

「幸崎。お前の読みだと、実力差はないんだろ?」

「今の所はな」


 幸崎は、一塁へ送球練習する新田を見る。


「なぁ、幸崎。疑ってる訳ではないが、新田がリミットに目覚めたらどうなるんだ?」


 幸崎はチラッと中西を見た後、立ち止まってバックスタンドを見渡した。


「そうだな……。一奥にとって、俺や国井(くにい)以上の強敵かもしれないな……」