ふう船に手紙を添えて

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愛理が目にしたもの2|リミット92話

 五回裏、名京(めいきょう)高校の打順は六番ピッチャーの竹橋(たけはし)から。バッターボックスへ向かう竹橋を見た姉の舞理(まいり)は、「そう言えば……」と空を見た。


「愛理ちゃん。竹橋君って、いつも九番よね?」

「ええ。それがどうかしたの?」


「ちょっと気になっただけだけどね。もしかしてクライシスリミットを超えたから、打順も上がったのかな~なんてね。例えばそう!逆転されないリミッターに、逆転するリミットが加わったとか?」


 照れながら話す舞理の言葉を聞き終えると、愛理(あいり)は真剣なまなざしで右バッターボックスへ入った竹橋を見た。


「その姉さんのカン。当たってるかもしれないわね……」


 構えたバッターの竹橋は、鋭い視線でピッチャーの松原(まつばら)を睨む。松原は思わず目を逸らした。


(攻守が逆になっても、奴の不気味さは続くのか……)「くっ」


 ロジンを掴む松原。キャッチャーの九条(くじょう)は、弱気に見えた松原へミットをパンと叩いた。気づいた松原は、すぐに顔を上げる。


(九条……)

(臆するな、松原。いつも通り来い)


 眼光鋭く構えたキャッチャーの九条を見た松原は、「キッ!」とロジンを叩きつけ気合いを入れた。


(そうだ。九条の言う通りだぜ。勝っているのは俺たちだ!)


 初球、松原はサイドスローから急激に胸元をえぐるシュートを投げた。


 かするようにボールとなったが、竹橋は微動だにしない。顔色も変えずに、マウンドの松原を不気味に笑う。


 松原も竹橋を見据えたまま、「くっ!」と九条からの返球を捕った。すると、松原から九条へサインが出た。


(ビーンボールだと?)「フッ……」


 九条は笑い、松原の要求に応える。そして松原が振りかぶった。


(こいつがピッチャーだろうが関係ねぇ。ぶち当てて、その顔を歪ませてやる!)


 二球目、松原は再びシュートを投げた。そのボールは竹橋のわき腹に当たり、ボンと鈍い音を立てる。


「ケッ……」

「なにっ!」


 驚いた松原が目にしたのは、全く避ける気がなかった竹橋の姿だった。


「タイム!ノーデッド。カウント、ツーボール」


 球審の判断に、名京側は誰も反応しない。当たった竹橋は、痛がる様子もなく何事もなかったように松原を睨み続けていた。


 異様な雰囲気が、再び球場中を包み込む。


 三球目。完全に竹橋の気迫に押された松原が選んだのはスライダー。しかしその球は、曲がらなかった。


 快音が響く中、竹橋の打球はレフトスタンドへ入った。厳しい表情のままダイヤモンドを回る。打たれたマウンドの松原は、「くそっ……」と自分の右手を見ていた。失投とわかっていたキャッチャーの九条は、点差も考えてマウンドへは行かなかった。


 そして竹橋のホームインを見たスタンドの舞理は、シラックマの頭を笑顔で撫でていた。


「もしかしたら、ここから連打だったりして」

「え?」


 グラウンド見ていた愛理が、横目で舞理を見る。


「姉さん!竹橋(かれ)は破のリミッターよ?それが限界を超えて超のリミッターになったって言うの?」


 舞理は「冗談。冗談よ愛理ちゃん」と言いながらシラックマを影に顔を隠した。


 「全く……」と座った愛理だが、(でも本当に、竹橋君は超のリミッターなのかもしれない……)と、再びグラウンドを見守る。


 その時、マウンドの松原を見つめるキャッチャーの九条も二人と同じ心境だった。


(名京ベンチの様子、この球場の雰囲気。これは全て竹橋(あいつ)の影響だ。油断は出来ないな……)


 座っている九条の視線に、右打席に入る七番バッターの姿が映る。


(ここで松原が七番(こいつ)に打たれるなら、早めに手を打たなければならない……)


 しかし九条の予想に反して、松原は後続3人を打ち取った。九条は軽く息を吐く。


「ふぅ……」(国井と竹橋。注意人物が一人増えたとしておくか……)


 五回を五点差で終え、ベンチへ戻る九条。ふと振り向くと、マウンドへ向かう竹橋が映る。その姿に九条は笑った。


(続投か、面白い。松原ではないが、斜坂(ななさか)を引っ張り出したくなってきたな……)


 そんな微笑む九条を見たベンチの木村監督も、微笑んでいた。


 六回表、梯高校は三番の二宮(にのみや)から。防具を外し、バッティングの支度を済ませた九条がネクストへ向かう姿を、木村監督は期待の目で見ていた。


(ピッチャーの竹橋君は破のリミッター。九条(かれ)もそろそろ、目覚めるかもしれませんなぁ……)


 ネクストバッターズサークルに座った九条。そしてバッターの二宮が空振りする。


「くそっ……」


 九条は、悔しがる二宮とマウンドの竹橋を冷静に見ていた。


(スピードは150を超える程度だが、その軌道がまるで別物。今の竹橋(あいつ)は、わかっていても打てないストレートを投げている。それだけボールが、急激に手元で浮いている……)


 パーン「ストライクバッターアウト」

「くそっ!なんだよこれは」


 ベンチへ下がる二宮の目に九条の姿が入った瞬間、二宮の眉がピクッと上がった。


(九条……すげぇ気迫だ……)


 唾を飲む二宮を気に止めず、九条はマウンドの松原を見つめたまま打席へ向かった。その姿に二宮が振り向く。


(俺たちも一奥(いちおく)の土産は開けた。だが九条は、この数ヵ月でさらに上を行った。あいつなら、あの球に対抗できるはずだ)

憧れたリミッター

 戻った二宮はベンチへ座り、構えた九条を見守る。静かな九条の姿を見上げたキャッチャーの国井は、九条の力に気づいた。


(こいつがブレイクリミッターだったとはな。白城(あいつ)が星見(ほしみ)との前哨戦だと思っていたが……まぁいいだろう)


 そんな国井と同じく、マウンドの竹橋も九条のリミットに気づいた。


(怖えぇ。こいつは怖えぇなぁ。まるで別人じゃねぇか……)「ケッ!」


 竹橋が振りかぶった。


(破のリミッターがぁ!俺はお前を倒し、西島白城(にしじましらき)も倒す……)


 思いっきり腕を振る竹橋。


(そして今度こそ、甲子園で星見を倒すんだ!)「邪魔をするなぁ!」


 地をはうようなボールが、止まるように浮き上がる。バッターの九条は、フルスイングで応えた。


(もらったぁ!)