ふう船に手紙を添えて

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決勝の相手|リミット90話

 五番の八木(やぎ)がホームインしたその時、白城(しらき)の横に座っていたキャプテンの神山(かみやま)が立ち上がった。


「よし。サブグラウンドへ移動するぞ」

「待ってくれよ!神山先輩!」


 立ち上がって叫んだ一奥(いちおく)は、複雑な表情だった。そんな一奥に構わず、次々に西島メンバーが立ち上がる。一奥はその場で、出口へ歩き出した神山を目で追っていた。


「お前らも早くしろ。アップに行くぞ」


 神山は一奥以外の1年生三人に声をかけたが、試合が気になり複雑な顔をしていた。すると、要(かなめ)を先頭に横に並ぶ四人の前に、神山が来た。


「お前らの気持ちはわかる。だが俺たちの相手は梯(かけはし)でも名京(めいきょう)でもない。川石(かわいし)高校だ」


 その時だった。打球音に反応した皆が見たのは、六番三好(みよし)のホームランだった。これで試合は6対2。


「はいはい。後は私が見ておくから、早くアップに行きなさいよ」


 愛理(あいり)の言葉に、要は立ち上がってシラックマを愛理の膝に乗せた。


「愛理さん。シラックマに試合を見せておいて下さい」


 要はおじぎをすると、愛理は「わかったわ」と微笑んだ。


「仟(かしら)、行こう!」

「あ、うん……」


 要に手を引かれた仟だったが、立ち上がったままグラウンドを見つめる一奥と、座ったまま両手を組む遠矢(とうや)が気になった。


 すると、静かに立ち上がった遠矢が「行こう、一奥」と左手を右肩に乗せる。


「遠矢……いでっ!」


 一奥の尻をひっぱたいたのは、愛理だった。


「愛理先輩!なにすんだよ!」

「バカね。少しは冷静になりなさい。要が、シラックマだっけ?このぬいぐるみに託したと言ったでしょ?どこが相手でも、あなたたちは後二つ勝つ事に変わりはない。そんな気持ちで、リズムリミッターの幸崎(こうさき)君に勝てるとは思えないわ」


「くっ……」


 一奥は愛理に言い返したかったが、歯を食い縛った。遠矢に左肩を抱かれ、ようやく一奥はスタンドを後にする。


 愛理と同じく、隣に座る姉の舞理(まいり)も、やりきれないといった様子の一奥の背中を見ていた。


「前監督と元チームメイトが勝っているのに、それを素直に喜べないのは一奥君が名京を倒したいからよね?それならせめて試合を見守りたい。そんなところかな……」


 愛理は、舞理の声に振り返る。


「姉さん、ちゃんと仕事してたのね」

「もちろんよ。あ!そのシラックマも何かのネタになるかもしれないから、写真撮らせてね」


 舞理がカメラを構える。一奥に強気で話した愛理だったが、複雑な気持ちでグラウンドを見た。


(あの名京高校が、このまま負けるとは思えない。でも……)


「これもいったかぁ。梯高校って強いんだなぁ」
「まさか名京が準決勝で消えるとは思わなかったぜ」
「時代は常に変わるんだよ」


 観客の声が、愛理の耳に入る。


(その通りだわ。私も名京高校に勝ちたい一人だったからわかる。それは、梯高校も同じなのよね。特に木村監督が動いたタイミングは絶妙だった。一奥君にあんな風に言ったけど、私が彼だったらアップをサボったかもしれないわね)


 一方、一奥たちがサブグラウンドへ到着すると、球場から聞こえた大歓声に気を取られた。「ん?」と一奥が振り向くと、「一奥~!」と遠矢に呼ばれてランニングの列へと走った。


 しかしその大歓声を贈った観客の反応は、先程とは違うものだった。


 名京勝利の予想で始まったこの試合。序盤は国井の2ホーマーで盛り上がったが、梯の連続ホームランで名京敗戦ムードとなった時点では盛り下がった。


 だがここにきて、初出場の1年生チームが名門名京高校に勝つのではないか?という期待が膨らみ始め、贈られた大歓声は八番の四本(よつもと)を含む八者連続ホームランによるものだった。


 チームランニングをしながら、どこか気の抜けた一奥が呟く。


「遠矢、名京は負けちまうのかなぁ……」


 暑い晴天の空を見上げながら走る一奥は、まだ気持ちが切り替えられずにいた。


「木村監督が動いたからねぇ……。僕も複雑だけど、愛理さんが言ったように、後二つで優勝!に集中しよう」

「だけどさぁ、なんで斜坂(ななさか)のヤツは出て来ないんだ?竹橋は逆転されるとリミットが落ちるんだろ?白城の時だって交代したよな?」


「一奥、それはまだ五回……」


 言った瞬間、遠矢の目が固まる。


「ん?どうした?遠矢」

「いや、ちょっと考えられない想像をしちゃっただけだよ。気にしなくていいから」


「ふ~ん。まぁ遠矢が言うなら別にいいけどさ」


 それからしばらく、球場からの歓声は静かになった。アップも一通り終わり、一奥は白城のストレッチに付き合う。


 すると、サブグラウンドの反対側でアップをしていた川石高校の幸崎とキャッチャーの中西(なかにし)が、二人の下へ歩いて来た。


 幸崎は手に持っていたボールを、座って両足を開きながら前屈する白城の目の前に落とした。白城は
「うおっ!」と驚く。

「ハハッ!西島(にしじま)君、調子は良さそうだな」

「幸崎さんか……脅かさないでくださいよ」


 幸崎はボールを拾い、空を見上げる。右の掌で回転させながら、ボールを上へお手玉のように上げ下げを繰り返した。


「あれから約三ヶ月……いや、一年かな……」


 一奥に背中を押してもらうのを辞め、白城はズボンをはらいながら立ち上がった。


「そうっすね……」

「一年前のピッチャー返しだけど、当時の白城(きみ)は僕のリミットを超えていたよ」


「いや、それはないっすよ」

「本当かな?ならあの時、瞬間的に沸騰したとでも言いたいのか?破のリミッター、西島白城……」


 幸崎は白城に厳しい目線を送る。白城は目を逸らし、下を向いて頭をかいた。


「まぁ幸崎さんがなんと言おうと、俺はリズムリミッターにやられたと思ってますよ。ピッチャー返しを打たされたとね」

「そうか、まぁいいさ。今日こうして、野球の神様が答えを出せとチャンスをくれたんだ。おもいっきり楽しませてもらうよ」


「望むところっすよ」


 気合いの入った白城の顔に満足した幸崎は、ボールを一奥にピョイっと投げた。それを「お?」と受け取る。


「斉藤一奥。君のおかげで今の僕らがある。あの時のお礼は、グラウンドでさせてもらうよ」


 ニヤリと笑った中西と共に、幸崎はチームへと戻っていった。


「幸崎……ああ!」


 すると、突然球場から大歓声が飛ぶ。「なんだ?」と、一奥は驚いて白城と目を合わせた。白城もわからず、ただ二人は球場方向を見つめた。


 少しして白城が「ん?」と眉間にシワを寄せたのは、試合終了のサイレンが鳴り響いた時だった。


「白城、これってもう試合が終わったって事か?」

「どうやらそうみてぇだな」


 不思議に思った一奥と白城は、ベンチにいるチームに合流した。


「急いで支度しろ!行くぞ!」

『おーぅ!』


 神山の合図で、西島メンバーは移動を開始。球場へと歩いていると、彼らの下へ試合を見ていた愛理が走ってきた。


 先頭を歩く神山の前で止まった愛理は、膝に手を置いて軽く息を切らす。その姿に、一奥はすぐに神山の隣へ行った。


まさかの急展開

 愛理は、下を向いたまま話し始める。


「七回コールド……ハァ……」


「ハッ!」と驚いた一奥を前に、愛理は体を起こして額の汗を右手で拭う。


「愛理先輩。コールドってことは、勝ったのは梯(あいつら)か?」


 一奥の言葉を聞いた愛理は、「フッ」と笑った。


「決勝は……」