イーズリーリミット再び|リミット86話

f:id:huletter:20171124215645p:plain 前進守備だったセンター坂手(さかて)が勢いよく後ろへ下がり、定位置付近でホームを向いて止まる。


 それを見た三塁ランナーの一奥(いちおく)は、(行かねえのかよ!)と戸惑いながらも急いでタッチアップの体勢に入った。


 二塁の要(かなめ)と一塁の仟(かしら)もタッチアップの体勢に入る中、打った白城(しらき)が呆然としながら一塁の仟に近づいていた。


 打球が落下し、センターの坂手が捕球体勢に入ったその瞬間だった。坂手はジャンプして捕り、そのまま中継のショート横溝(よこみぞ)へジャンピングスロー。


 三塁ランナーの一奥は、捕球イメージが違う坂手の姿にスタートが僅かに遅れた。ショート横溝が二塁付近でカットした為、仟はスタート出来ない。二塁ランナーの要は囮スタートをきった。ショートの横溝が三塁に投げれば要はアウトだが、一点は入って同点。


 だが横溝は、迷いなくホームへ投げた。


「一奥!真っ直ぐ突っ込め!」


 立ち上がったベンチの遠矢(とうや)が叫び、一奥がスライディングに入る。ショート横溝からのノーバウンド送球が、キャッチャー川原(かわはら)のミットをパシンと鳴らした。


「アウト!」


 無情にも球審の右手が上がる。キャッチャー川原のミットがボールを捕った位置には、滑り込んだ一奥の左足があった。


「よっしゃあ!」


 叫びながら右手でガッツポーズをしたのは、センターの坂手。その姿をジッと見ていた一塁ランナーの仟の視界に、打った白城の姿が入る。


 ふと仟が左を向くと、立ち止まっていた白城もセンターの坂手を見ていた。


「仟、俺が凡退したのはアイツのせいか」

「はい。白城さんが相手にしていたのは、リミッターではありませんでした。この結果を招いたのは、ダブルリミットによる油断と私たちの認識違いです」


「チッ……」


 ベンチへ戻る白城は、打席に立った際になんとなく気づいていた。ピッチャーの桂(かつら)に対して、いつもの沸き上がる感情はなかった。


 それもそのはず。警戒すべき高雲(こううん)学院の超のリミッターは、センターの坂手だった。それに気づくと同時に、白城と仟は危機感を持つ。


(これでまた……)
(初回と同じ条件が整ったって訳かよ)
「くそっ……」


 ベンチへ戻った白城は、皆に謝った。


「すんません。俺のミスっす」

「気にするな、白城」と、村石(むらいし)が白城の肩を叩く。アウトになった一奥もベンチへ戻ってきた。


「白城。何があったんだ?打った瞬間入ったと思ったぞ?」

「あぁ、肩透かしだ。あのセンターがリミッターだったんだよ。警戒すべきは坂手(やつ)だったんだ」


「そっか。ならしょうがねぇな」

「それがよくねぇんだよ」


「ん?」


 一奥が首をかしげる。四番の杉浦がピッチャーゴロに倒れる中、白城が続けた。


「あのセンターが絡んだダブルプレーが、このリミットの条件だ。仟とも確認した」

「マジ?リミッターがセンターなのか?」


 ビックリする一奥。話を聞いていた遠矢が口を挟んだ。


「どうりで……。この回僕らはセンターに打たされたんですよね。やはり得点が動いた事で、相手のリミットは解除されていた。再びリミットの条件を満たす為に、坂手さんはゲッツーの機会を狙っていた。という事ですね?」

「あぁ。センターが絡んで俺と一奥がダブルプレーになった時、坂手(あいつ)はガッツポーズをしたからな。これで再び奴のリミット内だろう」


「そうなると白城さん。高雲学院はまた一人もランナーを出す気はありませんよね」

「だな。このまま逃げ切るつもりだ。くそっ!」


 白城は、汗を拭いていたタオルをベンチに投げつけた。


「白城さん、なにかあるはずです。とにかく対策を考えましょう!」

「あぁ」


 遠矢と白城は守備へ走り、七回表が始まる。ベンチの坂手が指示する事なく、高雲ナインは試合展開を理解していた。やはりボールを投げれば空振りし、ストライクは見逃してきた。


 キャッチャーの遠矢は連続ボークも考えたが、ランナーが走塁を放棄すればアウトになる事からどうする事も出来ずにアウトカウントを積み重ねるしかなかった。


 結局、七回表は三者三振に終わる。そして西島の攻撃である七回裏を迎えた。バッターは五番の神山から。しかし西島ベンチは、またも同じ光景を見せられる事となった。


 遠矢と仟が必死に策を考えるが、坂手の作り出したイーズリーリミットは超えられない。


「これで7つ目のダブルプレー……」

「はい……」


「相手に出塁する気がない試合が、こんなに難しいとは思わなかったよ」

「本当ですね。点を取られるリミットよりも、これは厄介かもしれません」


 七番の鶴岡(つるおか)がファーストゴロに倒れてチェンジ。その姿を見て、ネクストからベンチへ戻った遠矢はプロテクターをつけ始めた。


(後2イニング。とりあえず八回表を終わらそう……)


 遠矢は守備に向かった。


 八回表が始まったが、高雲学院は相変わらずの淡々とした攻撃。皆が守備の間も坂手のリミット対策を考えるが、具体的なものは思いつかない。


 八回表を終え、先頭は八番の遠矢から。遠矢がバッティングの準備をしていると、ネクストの一奥が話しかける。


「遠矢、なにか策は浮かんだか?」

「う~ん……ヒットは出る。でも打つとゲッツーになっちゃうんだよねぇ……バントも同じだし……」

閃いた仟の奇襲

「ハッ!遠矢さん!それです!」

「え?」


 突然二人に叫んだのは、仟だった。


「打つからゲッツーになるのではないですか?」

「なぁ仟。そんなの当たり前だろ?」


 考える遠矢の代わりに答えた一奥に、仟は興奮ぎみに話を続けた。


「いえ。一奥さん、ひとつだけ方法があります」

「本当か?」


「はい」


 仟は二人をベンチ前に座らせ、思いついた作戦を話し始める。一奥は驚き、遠矢は感心した。


「確かにそうだったね……。よし、仟。まずは僕らでその布石を打つよ。一奥、頼むね!」

「わかった!」


 遠矢はバッターボックスへ。一奥はネクストバッターズサークルへ行き、仟はベンチに座ると要を隣に呼んだ。仟が作戦を伝えると、要はニコッと笑った。


 2対1と追い込まれた八回裏、西島カルテットの奇襲が始まろうとしていた。