思わぬ誤算|リミット84話

f:id:huletter:20171124215645p:plain 六回裏、西島高校の攻撃は八番の遠矢(とうや)から始まる。打席に向かう遠矢に、仟(かしら)が「遠矢さん!」と叫ぶ。その声に気合いの入った顔で頷き、「一奥(いちおく)の結果次第だね」と、バッターボックスへ向かった。


 遠矢の言葉を聞いた一奥が仟に聞く。


「仟、俺は打ってもいいのか?」

「はい。点が動きましたので、この回がチャンスだと思います」


「そっか。よっしゃ!じゃあこの回に逆転といくか!」

「はい」


 一奥は、意気揚々とネクストバッターズサークルへ向かった。遠矢が右打席で構える。ピッチャーの桂(かつら)が初球をアウトローに投げた。


 ストライクを見送った遠矢は、桂の球が変わっていないのを確認する。


(やはりツーシーム。次はもらう!)


 そして二球目、遠矢はセンター前にはじき返した。一塁ベースをオーバーランして戻る遠矢に、西島(せいとう)ベンチからの声はない。すぐにその目は、バッターボックスへ歩くネクストの一奥に向けられた。


 (本当に一奥はゲッツーにならないのか?)と、神山(かみやま)が思う中、一奥が初球のストレートをセンター前へはじき返す。


「しゃー!抜けたぜ!」


 叫びながら走る一奥だが、センターの坂手(さかて)は前に守っていた。打球をワンバウンドでキャッチすると、直ぐに二塁へ送球。


 しかし遠矢の足が勝った。構わずショートの横溝(よこみぞ)は一塁へ送球。これまたセーフの判定に、西島ベンチが盛り上がる。


『よっしゃぁー!』


 遠矢と一奥がギリギリの走塁でゲッツーを阻止し、この試合初めての連打でノーアウト一・二塁。


 迎えるは一番の要(かなめ)。仟は、要に引っ張れとサインを出した。うなずいて構える要に、仟は唾を飲み込んだ。


(まだゲッツーがないとは言いきれない。でも要が引っ張れば、ゲッツーでもツーアウト三塁は作れる。私が粘って白城(しらき)さんに繋げられれば……)


 しかし、仟の予想に反して要の打球はピッチャーの横を抜けた。ネクストの仟が立ち上がる。


「え?」(またセンター前……)


 前進守備のセンター坂手の捕球位置を見て、三塁コーチャーは遠矢を止めた。


 予想外のノーアウト満塁。西島ベンチは騒いでいるが、バッターボックスへ向かう仟は嫌な予感がした。


(抜けたから良かったけど、要は引っ張れなかった。三連続センター前か……)


 神山から打てのサインに頷き、右バッターボックスに立った仟は高雲(こううん)ナインの守備位置を確認する。


(レフトとライトだけ定位置。後は前進守備。狙いはアウトローをライト前へ運ぶ!)


 初球。仟はアウトローのツーシームを狙う。しかし、スイングに入った仟は球の回転が鋭い事に気づいた。


(これは!フォーシームのシュート?)


 判定はストライク。バットを止めた仟は、要が差し込まれた理由を理解した。


(踏み込んだ時に、外に少しスライドしたんだ。これだとバッテリーは、わざとセンター前に打たせてる事になる……まさか!)


 ピッチャーの桂(かつら)がセットに入った。この時仟は、センターにだけは打たないと決めた。しかし二球目はインコースへのフォーシームシュートだった。仟は見逃しツーストライク。


(遠矢さんが打った球は、おそらくこれ。この回転力ならセンターに飛んでしまう。そして次もおそらく同じ球がくる……)


 仟は打席を外してランナーにサインを送る。3人は頷き、仟が構えた。


(これでいい。これなら……)


 三球目。仟の予想通りインコースのシュートがきた。


(センター前で勝負!)


 仟が逆らわずにバットを振り抜く。打球はまたもセンター前へ。


(抜けた!後は要の足にかける!)


 杉浦(すぎうら)の時や遠矢の時と同様、やはりセンターの坂手は内野ゴロをさばくように素早く二塁へ送球。要は足から滑り込んだ。


 これまたセーフとなり、捕ったショートの横溝は直ぐに一塁ではなく三塁へ投げた。だが一奥は、仟から出たサイン通りに滑り込んでいた。それは、どんな打球でも進塁1つを必死で取る事だった。


 全ての塁の状況を把握した一塁の仟は、「よし!」と小さくガッツポーズ。ホームでは、ネクストの白城とホームインした遠矢が笑顔でハイタッチをしていた。

舞い上がった打球

 六回裏、ついに西島高校は仟のタイムリーで一点を返し、スコアは2対1に。尚もノーアウト満塁。カシカナの連打で、白城にエクストラリミットが発動。


 ダブルリミットの白城が堂々と打席に立つ中、バックスタンドの愛理(あいり)が姉の舞理(まいり)記者に呟いた。


「姉さん来たわよ。これが私たちのやられたダブルリミットの白城君だわ」

「うんうん。あの時の白城君ね……え!?なら愛理ちゃん?ここで満塁ホームランが出ちゃうの?」


「そうね。相手のリミットが、この回は効いてない様子。決まりだわ」

「おぉ……」


 蝶蜂(ちょうばち)姉妹が視線をグラウンドへ戻し、バッターボックスの白城が構えた。


(最高の場面だ!ここは決めさせてもらうぜ!)


 白城は初球のインコースのシュートをセンター方向へ高々と打ち上げた。この時、西島メンバーの誰もが安心しきった表情をしていた。


 一塁ランナーの仟が異常に気づいたのは、センター坂手がボールを余裕で追う姿だった。