一番ファースト杉浦|リミット75話

「カシカナはエクストラリミッターだった!?西島(せいとう)対美平館(みへいかん)。因縁の旧友三度激突!だってよ」

「最近のリミスポ凄いね」


 球場へ向かうバスの中、一奥(いちおく)と遠矢(とうや)は白城(しらき)の持ってきた限界スポーツ新聞を読んでいた。


「リミッターを否定する美平館に対し、西島(せいとう)は西島(にしじま)・田坂(たさか)など、主力のリミッターを使わないと宣言。また、仲沢(なかざわ)姉妹もベンチスタートのようだ。13年振りに快進撃を続ける西島高校には試練の一戦となるだろう。……って、俺も出ないんだけど……そろそろ何ちゃらリミットとかさぁ、俺も限界超えしねぇかなぁ……」


 すると、バスの後方から白城が声を飛ばす。


「おい、一奥(アホおく)。お前は遠矢とセットでバカリミッターだと言っただろ?」

「なにぃ!」


 驚いたのは、一奥ではなく杉浦(すぎうら)だった。


「白城、お前も一奥をバカリミッターだと言ったのか?」

「言ったっすよ?名京(めいきょう)と川石(かわいし)の練習試合の時にっすけど。なぁ?仟(かしら)」

「はい。確かにそんな会話がありましたね」


 その瞬間、村石(むらいし)が笑った。


「そりゃ神山(かみやま)と一緒じゃねぇか」

「マジっすか?やっぱみんなそう思ってたんすね」

『アハハ!』


 白城たちが笑う中、一奥の左拳が震えていた。


「遠矢、俺は今日試合に出るぞ……」

「ダメだよ。一奥は一応リミッター扱いなんだから」


「だってよぉ!俺らバカリミッターなんだろ?バレねえって」


 すると、黙って聞いていた神山が静かに口を開いた。


「一奥。バカでもお前はリミッターだ。お前は誰構わず野球バカの限界を上げてしまう。今日は大人しくしてろ」

「神山さん!……ちぇっ……」


 後ろを覗きこんだ一奥の顔を見て、神山は微笑んだ。


「野球バカリミッターに付き合ったメンバーが試合をするんだ。俺たちが負ける訳ないだろ?」

「まぁ、それは神山先輩の言う通りだな。今や俺もMAX162キロ出しちゃったし」


「そういう事だ。お前が投げれば、また新道がインチキだと言いかねない」


「そうだな。神山先輩始め、先輩皆さん頼んだぜ!」

「ちょっと待て!一奥」


「なんだい?杉浦先輩」

「俺が送りバントで勝利に導いてやる。見てろよ」


「あ、うん……」(なんかいつもと真逆だけど……まぁいっか)


 そして、バスは球場についた。バスの外を一奥が見ていると、名京ユニフォーム姿の斜坂(ななさか)を見つける。バスが止まると、一奥は真っ先に斜坂の下へ行った。


「おーい!斜坂~!」

「ん?なんだ、一奥か」


「名京はもう終わったのか?」


 すると、斜坂は得意気な顔でピースした。


「フフ……七回コールドの完封だ」


 その姿に、一奥は苦笑いする。


「お前……やっとまともに野球したんだな……」


「うるせー!どっちも大事なんだよ。ちなみに今は絶好調過ぎて、斜坂剛二の超右肩上がりだ!」

「なにが?」


「アナログマンか!……だったな……仕方ない」

「そういえばお前、帰らねぇのか?」


「志奈(しな)さんを待ってんだよ。お前らの試合の主役だからな」

「そんな事言っても、どうせ取材だろ?」


「うっ……それを言うな。あ!」
「ん?」


 家族の車から降りた志奈を、斜坂が見つけて手を振る。


「志奈さ~ん!こっちこっち!」


 ペコリと志奈が頭を下げると、一奥はその姿に驚いた。


「本当に来た……」

「なんだよ一奥。嘘だと思ってたのか?」

「お前の事だからな」


「こんにちは」


 志奈は元気なさそうに二人に頭を下げた後、西島高校のバスを見た。神山や杉浦と目が合うと、二人は志奈に笑顔で手を振った。志奈は二人に小さく頷いて、球場へと歩き出した。


「あ~、志奈さん。案内しますよー!」


(斜坂……あれじゃストーカーじゃねぇか……)


 斜坂も行ってしまい、遠矢に呼ばれた一奥は道具を運ぶ為にバスへ戻った。


「よいしょっと」


 バットケースを右肩にかけた一奥が遠矢とサブグラウンドへ歩き出すと、そこには美平館高校がすでに練習していた。


 今日の一奥たちはベンチ外。仟と遠矢は入ると思われたが、神山が紀香監督に伝えてベンチ外となった。紀香監督がそう決めたのは、一奥たちに頼れない状況を作る為だった。そして、神山たちの覚悟を本物にする為でもあった。


 ベンチメンバーがアップを始めると、紀香監督の下へ顎髭の似合う丸顔で小太りの美平館高校監督が近寄って来た。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「ところで監督さん。今朝のリミスポ読みましたか?生徒同士で色々あったようで」

「らしいですね。でもお構い無く。私はいつもベストメンバーで試合をしますから」


「そうですか。まぁ、私としてはありがたい話ですよ。手を抜いて下さる事はね……」

「何をおっしゃりたいのですか?」


「今夜も旨い酒が飲めるという事ですよ」


 カチン!と紀香監督がキレた。それを見ていた一奥と遠矢は、すぐに紀香監督の下へ走りながら叫ぶ。


「監督!まだ先発メンバー決めてないじゃないですか!行きましょう」
「そうだぜ監督!仟が呼んでるから早く来てくれよ!」


 間に入った二人は、紀香監督の手を片方ずつ掴む。すると美平館の監督は、笑いながら去って行った。


「これはこれは、さぞかしお悩みになられて下さい。では。ハッハッハ」


「かっ、監督!落ち着いて下さい!」
「やべぇ、スゲぇ力だ!」


 二人が紀香監督を引っ張るが、紀香監督は前進しながら美平館の監督の背中を睨み続けていた。少しして、紀香監督は落ち着く。


「もう!離していいわよ!」


 一奥と遠矢が腕を離すと、紀香監督は腕組みをした。


「なんなの!あの髭親父は!神山君!」

「はい!」


 アップ中だが、呼ばれた神山が走ってきた。


「どうしました?」

「相手の挑発に乗ってはダメよ!クールに遊びなさい!」


「えぇ……わかりました……」


 神山は、キョトンとしながらアップへ戻って行った。すぐさま一奥がツッコむ。


「監督、アレじゃ説得力ねぇだろ」

「うるさい!一奥(アホおく)!」


「えぇー?」


 紀香監督は、ベンチに座る仟の下へ歩き出す。二人もついていった。


「全く……こんな思いをするくらいなら、あなたたちを強行させて五回コールドにすればよかったわ」

「監督」

「なに?遠矢」


「僕らが出なくても、五回コールドになると思ってますけど……」

「ん?そうなの?」


「はい。監督が作った西島高校は強いですよ?」

「ま、まぁそうよね」


「あ、やっぱり七回コールドでもいいですか?」

「遠矢?勝つならどちらでもいいわよ」


 紀香監督の機嫌が直った。すると、一奥が小声で遠矢に話しかけた。


「遠矢。嘘がバレたらヤバくねぇか?」

「え?」


 一奥は、声の大きい遠矢の口を塞いだ。


「バカ!監督に聞こえるだろ」

「一奥(ひひをふ)!」


 遠矢が一奥の手を叩くと、一奥は手を離した。


「ふはぁ。嘘じゃないって。僕は本気で思ってるよ」

「マジか?」

「うん」


「それって、昨日言ってたリミッターの影響なのか?」

「おそらくね。僕はリミッターが現れると言ったけど、すでにリミッターは存在していたのかもしれないね……」


 遠矢はキャッチボールをする美平館ナインを見た。その視線に一奥は首をかしげる。


「ん?まさかリミッターを使うなって言った美平館にリミッターがいるのか?どんなリミッターが……」


 すると、一奥は頭を両手でグシャグシャとさすった。


「あ~ダメだ。頭使うのは苦手だわ。それより遠矢!インチキって言った方がインチキじゃねーか。あいつら許せねぇ」

「まぁ確かじゃないからね。ただ、愛理(あいり)さんの言葉が具体的すぎたんだよね。何か知ってるような……だからそう思うのかもしれないしさ」


「愛理先輩か。言われてみればそうだな」


「あ!愛理さんだ!」


 突然声を出した要(かなめ)を二人が見ると、スカート姿の愛理が要に手を振っていた。


「こんにちは。要、西島メンバーの調子はどう?」

「ガチです!……ん?ガチガチです!」


 要が答えると、そこへ来た遠矢が愛理に話しかけた。


「こんにちは愛理さん。一つ聞きたかったのですが、もし今日愛報(あいほう)高校が戦うとすれば、この試合はどうなりましたか?」

「え?遠矢君らしくない質問ね?そんなの初回で決まりよ」

「初回……ですか……」


 考えこむ遠矢が気になった愛理は、要の隣に座る仟(かしら)に話しかけた。


「仟、もうオーダーは決めたの?」

「はい、今書き終えました」


 仟はオーダー表を愛理に見せる。すると、手に取った愛理の眉が「ん?」と少し上がった。


「仟。これだと苦戦するわよ?」

「そうなのですか?」


 愛理はメンバー表を遠矢に向ける。


「遠矢君、さっきの問いに違う形で答えようかしら?」

「はい、お願いします」


「この試合なら、一番は私よ」

「愛理さんが?」「え?」


 聞いていた仟も驚く。その手は顎に手を当てた。


(不動の四番、愛理さんが一番?)「あの、愛理さん!西島の先発メンバーを教えて頂けませんか?」

「嫌よ……。いい?仟。せっかく暑い中試合を見に来たのに、すぐ終わったらアイスもろくに食べられないじゃない。遠矢君に聞いたらどう?」

「僕ですかぁ……」


 仟が遠矢を見つめる。遠矢は愛理から受け取ったメンバー表を見つめた。


「う~ん……一番は杉浦さんかなぁ……」

 バシッ「いたぁ!」


 仟は笑いながら遠矢の肩を叩いた。


「遠矢さん、冗談は辞めて下さい。杉浦さんですよ?愛理さんが一番なのはわかりますが、杉浦さんはありえません」


「そ、そうかなぁ……」
「そうですよ~」


 そんな二人見て、愛理は手を口に当てて楽しんでいた。


(悩んでる悩んでる。これは面白くなりそうね……)「じゃ、私は先にスタンドへ行くから!また後でね」


 要は「はーい」と手を振り、愛理も手を振りながら歩いて行った。遠矢は仟と話を続ける。


「ねぇ仟。本当に杉浦さんを一番にしてみない?」

「ダメです!絶対に負けられない試合ですから」


「でも、愛理さんのこのオーダーじゃないって件はどうするの?」

「それは……わかりません」


「なぁ、戻って来たから本人に聞いてみればいいじゃねぇか?」


 そう一奥が言うと、四人の視線に気づいた杉浦が近寄る。


「なんだ?」

「杉浦先輩。今日一番だってよ!」


「そうか!ガハハ!一奥、わかってるじゃないか」

「だろー?」


 杉浦はタオルを持って水道へ行った。一奥は得意気に仟に言う。


「ほれ!やっぱり知ってる相手だからな。考えがあるんだよ」

「そうですね、わかりました」


 仟はボールペンを走らせ、メンバー表を書き直した。


 一番ファースト杉浦
 二番ショート小山田
 三番キャッチャー村石
 四番サード神山
 五番ライト加藤
 六番ピッチャー鶴岡
 七番セカンド小林
 八番レフト影山
 九番センター光


「できた!どうですか?遠矢さん」

「うん。これで行こう」


 仟はストレッチをしている神山の下へ。


「神山さん、今日のオーダーです」

「お?サンキュー。……ん?杉浦が一番?」


「はい。言い出したのは遠矢さんですが、杉浦さん本人に聞いて決めました」

「そうか、わかった」


「絶対勝って下さいね!」

「あぁ。生まれ変わった西島野球を、あいつらに見せてやるさ!」


 すると、試合終了のサイレンが鳴った。立ち上がった神山は「移動するぞ!」と叫ぶ。ベンチメンバーと選手入場口で別れた一奥たちは、一塁側の応援スタンドへ行った。


 一奥たちがスタンドに顔を出すと、この日も一万人程の観客で溢れていた。すると、一奥がアイスを食べる愛理を発見する。愛理は数人の男女にサインをしていた。


 気づいた愛理が手を振ると、サインを待っていたファンが仟と要に気づいた。二人は愛理に呼ばれ、野球ファンの相手をし始めた。サイン、握手、写メと進む中、一奥と遠矢は西島高校応援席へ先に行った。ベンチに座った一奥は、グラウンドを見てウズウズしていた。


「遠矢。やっぱりこういうのは慣れねぇな。野球やりたくなってくるわ」

「そうだね。でも……」


 立ち上がった遠矢は、周りを見渡す。


「ここにいると、ベンチに入れない先輩たちや、暑い中応援に来てくれる生徒の気持ちがわかるよね。ありがたいよ」


 遠矢の笑顔を見た一奥は、「そうだな!」と微笑んだ。


「あれ?そういえば白城はどこに行ったんだ?」


 一奥がキョロキョロするが、その姿は見当たらない。


「サブグラウンドにもいなかったよね……」


 遠矢も探していると、愛理たちのところであくびをしながらサインする白城を見つけた。


「いたよ、一奥」

「お?なんだよ……白城も人気者か。探して損したぜ」


 すると、グラウンドでは美平館高校のノックが始まった。それを見ていた遠矢は、「さすがだねぇ」と感心する。そしてふと電光掲示板を見ると、西島高校は先攻だった。


「遠矢君、私のアドバイスが効いたかしら?」


 二人の下へ、愛理たちが来た。


「愛理さん、先攻が正解でしたか?」

「なに?その言い方。まさかわかってないの?」


「はい、恥ずかしながら……」


 愛理は遠矢の隣に座り、仟、要の順に座った。

正解と不正解

「まぁいいわ、先攻ならね。それで仟、一番は誰にしたの?」

「はい、杉浦さんです」


「杉浦君か……私なら神山君だったんだけどねぇ……」


 遠矢と仟は、目が合って苦笑いをした。


「でもまぁ、それならそれで杉浦君に期待するしかないわね。要、あなたなら初回どうする?」

「う~ん……ホームラン打ちます!」


 愛理は右目を瞑って要を右手で指差し、笑顔で「正解!」と言った。すると遠矢は、手をパチンと膝下で合わせた。


「そうか!オーソドックスなリミッター……」


 愛理は、右手をそのまま遠矢に向ける。


「遠矢君、それも正解!」


「アイスいかがっすかぁ?」

「すいませーん!こっちこっち!」


「毎度ありがとうございます!」


「う~ん!おいし~ぃ!やっぱり夏はこれよね!」


 愛理がソーダアイスを食べる中、試合前の西島ベンチでは杉浦が吠えていた。