ゲーセンリベンジ|リミット52話

 次の日の放課後、一奥(いちおく)、白城(しらき)、遠矢(とうや)、要(かなめ)の4人は、一時間ほど電車に乗って駅前のゲームセンターへと行った。


 駅に着くと、白城が「こっちだ」と言い、3人はついていく。


 大型デパートのワンフロアーがゲームセンターとなっている光景に、一奥は「ここかぁ」と少し目を光らせていた。


 そんな一奥に、白城が話かける。


「そんなに珍しいか?」

「いや。俺ゲーセン初めてなんだよ。だから行ってみたかったんだよね」


「なに?お前リベンジとか偉そうに言って、本当はゲーセンが目的だったのか?」


「まぁまぁ」と、ごまかす一奥。すると、ユーフォーキャッチャーを指差す要の声が二人の耳に入る。 


「一奥ん。このぬいぐるみ取ってよ!」

「いや、俺やり方わかんねぇし……って、おい!」


 要は一奥の腕を掴んでぬいぐるみの前へ連れていく。その時遠矢は、目的の野球ゲーム付近を見ていた。何人かがプレイ中だが、白城から聞いたそれっぽい輩はいない。気づいた白城が、遠矢に話しかけた。


「遠矢、棚屋(たなや)の制服の奴らならいねぇぞ?」

「そうみたいですね。白城さん、どうします?待ちますか?」


「まぁせっかくだしな。大会前のリラックスにもなるだろ?」


 ニヤッとした白城は、要と一奥がもめるユーフォーキャッチャーの下へ歩く。遠矢は、頬をかきながらついていった。


「どけ、一奥」
「うおっ」


「要、どれだ?俺が取ってやる」

「白城(しら)先輩、あれあれ!」


「ん?」


 要が指差したのは、ガラスケースにもたれかかっている大きな熊のオブジェだった。


「西島(ウチ)と同じ色のユニフォーム着てるでしょ?」

「まぁ……そうだな……」


 白城は困った。


(あれは飾りなんだよなぁ。こいつもゲーセンを知らない種族か……どうすっか……)


 白城は財布を取り出すと、「ん?小銭がねぇな。ちょっと待ってろ」と嘘をつき、店員の下へ。


「すいません。あそこにあるオブジェのぬいぐるみって、譲ってもらえないっすかね?」

「オブジェ?……お客さん、それは無理ですよ」


「チッ……ダメかよ。お?」


 白城が舌打ちしたその時だった。その目にイベントの文字が映る。


「なぁ店員さん。このイベントって野球ゲームの大会だよな?」

「はい。エントリーは本日5時までですが、もしかして参加されますか?参加料はゲーム代になりますが、優勝者には景品を用意してますので、是非参加して下さい」


「へぇ……それで、優勝の景品って何?」

「こちらです」


 店員と白城が告知ボードの後ろへ回る。そこに書いてあったのは、プロ野球のペア観戦チケットだった。


「どうですか!参加されます?」

「参加は構わねぇけど……チケットはいらねぇからさ、ぬいぐるみと交換してくれないか?」


「ですからそれは……え?少々お待ち下さいっ!」


 イヤホンを聞いた店員が、白城の前から姿を消した。白城が(なんだよ……)とイライラしていると、そこへ一奥が来た。


「おい白城、両替まだなのか?」

「はぁ?うるせぇなぁ。両替機が壊れてたんだよ。今店員待ちだ」


「ふ~ん」


 二人が待っていると、店員が店長と歩いてきた。すると店長は、白城を嬉しそうに見つめる。


「やはり間違いない!」

「ん?」


 目が合った白城が小首をかしげる。


「君。半年ほど前に、ラブリーベースボール中に突然辞めた覚えはないかな?」

「あ……えぇ、ありますけど」


 気まずそうに返事をした白城の右手を、興奮した店長が両手で掴む。


「おぉー!そうかそうか!やっと伝説のプレーヤーに会えたよ!」

「へ?」


「実はこのイベントは、君に会う為に始めたようなものなんだよ。是非参加してくれるなら、望み通りにしますよ」

「マジ?じゃあ、そういう話なら」


「ありがとうございます。では、また後程」


 店長は部屋へ戻り、店員も頭を下げて去っていった。すると、隣にいる一奥は苦笑いをした。


「白城……伝説って、お前どれだけの敵を倒したんだよ。通いすぎだろ」

「うるせぇ!暇だったんだよ。神山(かみやま)さんには言うなよ……はずか……」


 白城が一奥を見ると、一奥はイベントボードの方へ向かっていた。


「それで優勝商品は……と。おおー!プロ野球の観戦チケットじゃねーか!マジかよ!おい白城、ぜってぇ勝てよな!」

「当たり前だ。だがお前は、自費で熊と観戦に行けよ」


「はぁ?おい!白城!」


 白城は、店のカウンターへ出場の手続きへ行く。


「おい、ちょっと待てよ~!」


 一奥が追いかける。先に白城がカウンターに着くと、店員と話す先客がいた。


「だからよぉ、なんで俺の参加を認めねぇんだよ!」

「ですから、直接プレーヤーに関わる行為をイベントでは禁止してますので……」


 怯える店員に絡む3人の顔を見た白城は、すぐに思い出した。そして後ろから近づく。


「おい、久し振りだな」

「はぁ?誰だぁ?お前」


「誰でもいいだろ。それより早く手続きしろよ」

「それは店員(こいつ)に言え!」


 白城は、めんどくさそうに髪を右手で荒らした。


「まぁいいか。なぁ店員さん、俺とこいつを初戦にしてくれ。俺が勝てば問題ないだろ?こいつを黙らせろって、頼まれたからさ」

『なにぃ?』


 3人の男たちが白城を睨み付ける。すると仲間の一人が、リーダーと思われるカウンターに寄りかかった男に耳打ちした。


「なに?……なるほどな」


 3人が白城にニヤつく。


「お前、あの時逃げた奴か。ハハッ、面白れぇ。この俺にリベンジしに来たって訳か」

「それはこっちの台詞だけどな」


 すると白城は、カウンターに置かれたボールペンを手に取って31番の枠に西島(せいとう)高校と書いた。しかし、それを見た店員が白城を止める。


「お客様、学校名ではなくハンドルネーム的なものでお願いします」

「ああ、間違えちまった。ま、俺は構わないんだけど……」


 白城はニヤつき、隣にいるリーダー格の男を見る。男は白城の書いた文字を見て、眉間にシワを寄せた。


「西島(せいとう)高校だと?一週間後の相手じゃねぇか。まさかお前、野球部か?」

「今はな」


「っ……ハハッ!これは面白すぎるぜ。おい店員、俺の参加に文句はねぇな?」

「はい、ではこちらにお名前を」


 男はボールペンを取り、棚谷(たなや)高校倉部(くらべ)と書いた。そしてボールペンを白城に差し向ける。


 白城はボールペンを受け取り、西島(せいとう)高校と書いた下に、西島(にしじま)と書いた。すると倉部がまた覗き込む。


「西島(にしじま)?お前、あの学校のお坊っちゃんか?」

「出来は悪いけどな」


「ハハッ、確かにそのようだ。開始は5時過ぎ。西島、また逃げるなよ!」


 倉部たちは『ハハッ!』と笑いながら去っていった。


 32名で締め切られたイベント開始まで、後10分ほど。白城と一奥も、カウンターを後にして遠矢と要の下へ歩き出した。


「なんだよあいつら。素行が悪そうじゃなくて、あれじゃ悪すぎだな。白城じゃなくてもムカつくぜ」

「それが狙いなんだよ。覚えとけ一奥。お前は単純だからな」


「俺は引っかからねぇよ!……ん?」


 一奥が目にしたのは、ユーフォーキャッチャーをやる遠矢と、横で応援する要の姿だった。


 すると、要はしゃがんで遠矢が取ったぬいぐるみを手にした。


「やったね!遠矢君(とやくん)」

「意外に簡単だったよ」


「なに取ったんだ?」と一奥が要の持つぬいぐるみを見ると、それはオブジェのミニチュア版だった。


「えへへ。白城(しら)先輩遅いから、取ってもらっちゃった」


 満面の笑みを浮かべる要とは対照的に、それを見た白城は唖然としていた。


 白城は、あの大きなユニフォーム熊だと思っていた。遠矢もそう思っていたが、要が指差したのはその手前にあったミニユニフォームの熊だった。


 要は一奥と白城がいない間に遠矢の誤解を解き、欲しかったミニユニフォームの熊を取ってもらった。


「これ、一つ仟(かしら)にあげようかなぁ。ありがとね!遠矢(とや)くん」


 空気の読めない要は喜び続けているが、遠矢は「よかったね。あ、僕ちょっとトイレに行ってくるよ」と去っていった。「うん」と返事をした要は、白城に向けて両手に持つ熊を前に出した。


「ねぇ、白城(しら)先輩。遠矢(とや)君初めてやったんだって。なのに1発で2個だよ?凄いよね?」

「そうだな……」


 白城の両手がプルプル震える。その怒りに気づいた一奥は、要の腕を掴んで強引に引っ張っぱる。


「か、要!ジュース買いに行こうぜ!」

「え?あぁ~!」


 白城は、二人の後ろ姿に誓った。


(あのでかい熊……ぜってぇ取ってやる!)


 一奥と要がジュースを買って戻ると、白城はテーブルのある椅子に座っていた。遠矢もトイレから戻り、4人はジュースを飲み始める。すると、イベント開始を告げる館内放送が入った。


 白城は飲み終えた缶をグシャっと握り潰し、ポイッと缶をゴミ箱へ投げながら立ち上がった。


「よし!行くぜ」


 遠矢と要は、歩き出した白城を不思議そうに見る。そんな二人に一奥は、「俺たちも行こうぜ」と声をかけた。3人は立ち上がり、白城の後を追う。問いかけたのは遠矢だった。


「一奥」

「ん?」


「リベンジ相手がいたって事だよね?」

「ああ。さっき放送が入っただろ?あれに白城が出るんだけど、一回戦からやる事になったんだよ」


「なるほどね」


 3人もラブリーベースボールのあるコーナーへ向かう。そして要が一奥に声をかける。


「一奥ん、白城(しら)先輩気合い入ってるね」

「まぁな。でも、目的を見失ってなきゃいいけどな……」


「おや?なんで?」

「あ!いや、要が気にする事じゃねぇよ」


「ふむふむ……」


 到着した3人は、ゲーム機の前に座る白城を後ろから囲んだ。少し離れた横側に、対戦相手の倉部たちがいる。


 そして館内アナウンスが始まると、見物人がぞろぞろとラブリーベースボールの周りに集まりだした。


「ではこれより、当店の目玉イベントを開催します。今日お集まり頂いたのは、こちらの32名です!」

『おぉーー!』


 フロアーの一角が暗くなり、台に座る32名にスポットライトが浴びせられた。


「おぉ……スゲェな」

「眩しいねぇ」


 呑気に会話する一奥と遠矢を背に、白城は微動だにしなかった。


「それでは、第一回戦プレイボール!!」

『うおぉー!』
『キャー!』


「尚、一回戦注目のカードはこちらの巨大モニターにてご覧頂けます」


 店員のアナウンスで映し出された画面は、西島対倉部と表示されていた。それを見た一奥が興奮する。


「おい!要。見ろよ、この試合だぜ!」

「イケイケ~!白城(しら)先輩!」


 先攻は白城。ゲームが始まると、倉部は前の対戦と同じようにデッドボールから入った。


「おっと!初球からデッドボール。倉部選手、手痛いミスかぁ?」


 アナウンスを聞いた白城だったが、その声は冷静だった。


「お前ら、よく見てろよ。これが倉部の野球だ」


 3人は白城の言葉に頷き、見やすい巨大モニターへ目をやった。そして店員の実況が続く。


「あーっと!これもデッドボールだぁ。どうしたのでしょうチーム倉部。初回から二球続けてのデッドボール。これでノーアウト一・二塁です。チーム西島、ここは送ってチャンス拡大かぁ?」


 しかし、倉部の野球は止まらない。


「なんと!またしてもデッドボール。あーっと?これはバッターが怪我をしてしまった模様。チーム西島には辛いアクシデントですねー。選手交代です」


 一奥が倉部を見ると、仲間と画面を見て笑っていた。その時、フロアー内でモニターを見ている観客からブーイングが飛ぶ。


「場内からブーイングが起こっておりますが、画面はノーアウト満塁で四番。チーム西島は大チャンスを迎えました。さぁチーム倉部はどうするのか……?あーっと、またもやデッドボール。なんと押し出しです。そしてまたバッターが退場。これは故意に当てています。先制はチーム西島。何もせずに貰った得点ですが、全く避ける気が無いのは何故だぁ?このままどこまで続くのでしょうか!」


 わざと当てる倉部と、全く避けない白城。結局デッドボールは九番まで続いた。

 点差は6。まともにボールへ当たるチーム白城は、退場者も6人になってしまった。


「さぁ、全く訳がわからない試合となりました。チーム西島は6点のリードとはいえ、ベンチには後3人しか残っておりません。現在打者一巡でノーアウト満塁。さぁ、ここでチーム西島は避けるのか?チーム倉部は全員を退場させるまで続けるのか?一体どぉなるんだぁ?」


 白城の後ろで見る3人は、このラブリーベースボールを知らない。白城から倉部の野球と聞かされてなければ、頭にきていただろう。


 その白城に特に変化はなく、3人は白城の操作する画面を見ていた。そして倉部が次の打者にデッドボールを当てた瞬間、ついに白城に向かって話しかけた。


「おい西島、お前のベンチは後二人だぞ?わかってるよな?」

「いいから早く投げろよ。まだ点をくれるんだろ?」


「フン……」(バカが!余裕でいられるのも今のうちだ!)


 倉部たちがニヤつく。そして実況が続く。


「さぁ、これで試合は7対0。チーム西島の退場者は7人。残りは2選手しかいませんが……あーっと、またデッドボール!一回戦の好カードとご紹介しましたが、残念な試合となっております」


 アナウンスの声を反映するかのように、続く三番もデッドボールで退場。ついに白城のチームは、約半年前と同じく交代選手がいなくなってしまった。


 すると、いきなり倉部が笑いだした。


「ぷっ……ハハッ!西島、後何点欲しいんだぁ?前みたいにもう一人サービスで当ててやろうか?もうお前のベンチに選手はいない。ゲームの設定上、もう退場の危険はないからな!嬉しいだろ?ハハハッ!」


 白城が倉部を睨む。そして倉部の声を聞いた実況の店員が驚いた。


「なんと!チーム倉部の作戦はこれだったのかぁ?」


 高笑いする倉部が立ち上がる。


「その通りだ!アナウンスの店員。もうあいつのチームはグズの9人。誰がやっても逆転するんだよ!」


 ニヤつく倉部が白城を見る。


「状況はわかってるよな?西島!」


 白城は、お手上げといったポーズを取った。


「そうだな。倉部さんよ、一人とは言わずもっと当ててくれ。この試合は終わりだ」


 そんな白城を見た一奥は、作戦だと見守っていたが我慢の限界だった。しかし、動こうとした瞬間遠矢が一奥の右腕を掴む。


「一奥」

「遠矢!離せ!あのやろー」


「まだ一回の表だよ?」

「くそっ」


 その時、白城が背中越しに呟いた。


「一奥、いいから黙ってろ」

「白城……」


 すると倉部は、普通にゲームを進めて3人をアウトにした。ようやくチェンジとなり、実況する店員の声も落ち着く。


「ようやく一回の表が終わりました。なんと10対0。ご存じの通り、ラブリーベースボールは10点差でゲームセット。本当にこのまま初回で終わってしまうのかぁ?」


 落ち着いたと思われたこの試合。しかし、守る白城の初球が会場をどよめかせる。プレーヤーの倉部は、おもわず白城に向かって叫んだ。


「てめぇ、これはなんのつもりだ!」

ゲーセンリベンジ2

「見ればわかるだろ?お前と同じ事をしてるだけじゃねぇか」


 白城は、倉部と同じデッドボール作戦をやり始めた。これには実況も焦る。


「なんと!チーム西島もデッドボール狙いだぁ!これはもう野球ではありません。せっかくのリードがドンドン詰まっていきます」


 そして白城は、倉部のチームも9人にしてしまう。しかし、イライラしていた倉部を仲間の耳打ちが冷静にする。気づいた倉部は、勝ち誇って白城を見た。


「なぁ西島。せっかく点をやったのに、これで同点だぞ?お前の作戦は9人で俺とまともに勝負する気だろうが、甘かったな」(へへっ、バカめ!俺は元々全選手の設定を平均値にしてあるんだよ)


 すると白城は、「はぁ~」と一息ついた。


「いちいちうるせー奴だな。お前が喋ってる間に、つい投げちまったじゃねぇか」

「はぁ?たかがワンストライクなどどうでもいい。俺は優しいからな。お前の望み通り、ここからまともに勝負……」
『ああ!』


 倉部の後ろにいる二人が画面を見て驚く。二人の反応が気になった倉部がすぐに画面を見ると、「なんだこれは!」と驚きながら立ち上がった。


 会場中もどよめく。実況している店員も巻き込まれた。


「なんと!チーム西島のピッチャーが150キロを計測しています。これは一体どういう事だぁ?」


 そんな空気を、白城は静かに笑っていた。


「倉部。俺はあの時、本当にお前の野球にキレて帰っただけなんだよ。お前はどうせ、あの時も選手を平均値にしてたんだろ?」


 倉部は言い返す事なく、悔しそうに止まっている画面を見ていた。


「その顔は図星か。お前の作戦は、俺みたいにキレさせて試合を放棄させるか、平均値以下の選手を強引に出して逆転するこの2つだ。普通はベンチの選手の設定を高くはしないからな」

「だからなんだ!西島、それで俺に勝ったつもりか!俺の選手は全て平均値。お前のピッチャーが一人設定を上げていたとしても、俺がお前にゲームの腕で勝てばいいんだよ!」


「そうか、腕なら自信があるんだな。ならそうすればいいだろ?」

「当たり前だ!」


 しかし、倉部は白城に簡単に抑えられる。それでも倉部には作戦があった。


(まぁいい。球は速いが、スタミナも高いかはわからない。平均設定で打つタイミングは難しいが、スタミナさえ切れれば球は遅く……)「ん?おい西島」


 倉部が目にしたのは、白城が自販機へ行こうとした姿だった。


「なんだよ?好きに投げればいいだろ?ジュースくらい飲ませろ」

「クソが!その余裕、後悔させてやるぜ!」


 倉部は、全く動かないバッター相手にスリーアウトを取る。すると、ジュースを買ってきた白城がゲーム機に座らない。ジュースを飲みながら、遠矢と話していた。


 再び倉部がキレる。


「西島ぁ!早く投げろ!」

「いちいちうるせぇなぁ。焦るな倉部。今投げてやる」


 すると、席に座ったのは遠矢だった。


「白城さん。やり方はわかりましたけど、本当にいいんですか?」

「あぁ。やり方がわかれば十分だ」


 それを見た倉部が、ついに怒鳴りこんで来る。倉部は遠矢の右肩を掴んだ。


「お前はどけ!俺の相手は西島(こいつ)だ」
「あ!」


 右手を揺らされ、遠矢はつい投げてしまった。ハッと画面を見る倉部。そして余裕でジュースを飲む白城。


「倉部、早く戻らねぇと三振だぜ?」

「くそぉ!」


 白城の言葉に納得いかない倉部だが、急いで席へ戻った。だが倉部は、ボタンを押すだけの遠矢の球が打てない。やはり、プレーヤーの腕以上の設定差があった。


 チェンジとなった倉部がチラッと白城を見る。白城は、まだ遠矢にプレイを委ねていた。気にいらない倉部だが、これはチャンスだと気持ちを切り替えた。


(どう見ても遠矢(あいつ)は素人だ。なら素直に勝てばいい。そうだ、俺は勝てばいいんだ!)


 倉部が投げたその時だった。「なにぃ!」と倉部が驚き、実況する店員が声を上げる。


「入ったぁ!ホームラン!チーム西島、逆転です!」


 驚いた倉部が遠矢を見ると、照れたように頭を撫でていた。すると、今度は遠矢と要が入れ代わる。


白城は、はしゃぐ3人をのんびりジュースを飲みながら見ていた。倉部は台をドンと両手で叩く。


(落ち着け!西島(あいつ)がやらないならそれでいいんだ。マグレは終わり。試合も終わりだ!)


 倉部がボタンを押そうとしたその時、白城の声が耳に入る。


「なぁ、倉部。気をつけて投げろよ」


 倉部は手を止めた。


「はぁ?どう見ても、そいつらは素人だ!ナメんなよ!」

「ま……いいけどな」


 倉部がボタンを押すと、簡単に要に打たれた。ボタンを押しただけの要も、ホームランを打った。


「おー!やったぁ!白城(しら)先輩、このゲームって簡単だね!本当にボタン押しただけだったよ?」

「まぁ……な」


 連続ホームランを打たれた倉部は、悔しそうに歯を食い縛った。


「西島……お前、退場した選手の設定を……」

「その通りだ倉部。俺は普段から全員1に振り分けていた。腕が違いすぎるからな。だから言っただろ。あの時俺は、本当にキレて帰っただけだ。結果は同じだったんだよ」


「くっそぉ!」バン!


 倉部は、両手でおもいっきり機械を叩いた。


「やったな!白城」

「まぁ、やる前からわかっていたけどな」


 一奥と白城が喜び合う中、結局倉部は試合放棄をした。勝利した白城は、そのままトーナメントに優勝。実況が歓喜を伝える。


「優勝~!チーム西島、おめでとうございまぁす!」


 フロアー中に拍手が鳴り響く。そして優勝景品のチケットが白城に渡されたが、白城は店員に望みを呟いた。


 こうしてイベントは無事終了。白城は3人に、「ちょっと店長に会ってくるから、お前らあそこで待ってろ」と、ゲームフロアーの休憩所を指差した。


 3人が休憩所に座ると、帰ったと思っていた倉部たちが絡んできた。


「おい、西島はどこへ行った」

「ん?知らねぇよ。会いたいなら自分で探せ」


 一奥はきつく言ったが、倉部は意外に冷静だった。


「まぁいい。なら西島に伝えておけ。一週間後、楽しみにしてろってな!」


 倉部たちは去っていった。すると、入れ代わるようにデッカイ熊を持った白城が現れた。


「ほれ、要」

「うわぁ!」


 テーブルに置かれたでっかい熊に、要は驚いた。


「白城(しら)先輩、これどうしたの?」

「優勝の副賞だってよ」

「おぉ……スゴスゴ……」


 すると要は、テーブルにあったリクエスト用のサインペンから青のペンを取った。そして文字を書き始めたが、白城は一奥の顔が気になった。


「一奥、倉部に何か言われたのか?」

「へ?何でわかったんだ?」


「あいつらが帰るのを見たからな」

「そっか。白城、お前に試合を楽しみにしてろって言えってよ」


「そうか。なら今日のリベンジは、一回戦を難しくしたかもしれねぇな」

「関係ねぇよ。俺はスッキリしたぜ」


 立ち上がった一奥は、微笑みながら歩き出した。その姿に、白城はフッと微笑んだ。


「要、帰るぞ」

「あ~白城(しら)先輩、もうちょっと待って……」


 白城には要が熊に何を書いているのか見えないが、喜ぶ要の姿に満足していた。


「できた!」


 ペンに蓋をした要は、両手でデッカイ熊を反転させて白城に見せる。熊のユニフォームには、西島のローマ字が書いてあった。


「へぇ。お前上手いな」

「えへへ」


「じゃ、帰るか。一奥(アホおく)が迷子になる前に、追いつかねぇとな」


 白城はデッカイ熊を手にし、要に渡して遠矢と3人で一奥を追った。


「白城(しら)先輩。この熊どーするの?」

「お前にやる。まぁ、その前に一奥が貸せって言うかもな」


「んん?」


 要が不思議がる中、熊を手に取った白城は追いついた一奥に熊を投げ渡した。


「おっ?っていうか白城、俺は熊じゃなくて観戦チケットが欲しいんだよ」

「お前は自費だって言っただろ?まぁ、自費が嫌なら自力で行け」


「は?」


 一奥が困惑していると、遠矢がニコリと微笑んだ。


「白城さん、それってリミッツスタジアムですよね?」

「お!遠矢、さすがにお前は察しがいいな」


 決勝の場だと気づいた要も、二人と笑い合う。しかし、一奥はわからずにいた。


「なぁ白城、この熊とリミッツスタジアムになんの関係があるんだよ」

「一奥、今日トーナメントを勝ち抜いただろ?その熊は縁起ものだぜ?」


「おおー!」(この熊が名京との決勝へ導く……)「頼むぜ、熊~!」


 一奥は、熊を上に投げながらはしゃいだ。


「あー!一奥ん、それ私の熊~!」

「いやっほーぅ!」


 一奥を追いかける要の姿を見て、白城と遠矢は笑っていた。


そして一週間後、棚谷高校との初戦を迎えた。