リズムリミッターの封印|リミット42話

(本番……?)


 仟(かしら)は小首をかしげ、考えている間に一奥(いちおく)はスタスタと三塁ベンチ上へ歩いていった。


 すると一奥(いちおく)の目に、クールダウンの為に軽くキャッチボールをする幸崎(こうさき)が映る。


「どうもー。いい試合だったぜ?リズムリミッターの幸崎(こうさき)さん」


 その声に幸崎(こうさき)が反応するが、近くにいた川石(かわいし)メンバーが先に絡んできた。


「お前は!」
「何の用だ!」
「バカにしに来たなら許さねぇぞ!」

「おー、こえぇ」
 

 そんなやり取りを、幸崎(こうさき)が笑顔で止めた。


「まぁまぁ。斉藤(さいとう)君だよね?一昨日はどうも」


 いら立つチームメイトをなだめ、幸崎はネット越しに一奥(いちおく)の下へ来た。


「今日は偵察かな?」

「まぁ、そんなとこだよ」


「それで、収穫はあったかな?」

「う~ん。本当は勝負をしたいんだけどさ、今日は止められてるから感想を言いに来たよ」


「感想か。それはありがたいね」


 すると、また川石(かわいし)メンバーから罵声が飛ぶ。


「ふざけんなよ!てめえ」
「幸崎(こうさき)さん、こんな奴相手にしなくていいですよ!」
「バカはほっといて、帰りましょう」


「まぁ、感想をくれるんだから、聞くだけ聞くよ。で、どんな内容かな?」

「その前にさ、1つ聞いていい?」


「いいよ。なんだい?」

「幸崎(あんた)のリズムリミットは、守りから始まる事はないの?」


 その言葉を聞いた幸崎(こうさき)は、「う~ん……」と腕組みをしながら目を閉じた。


「あるような気がする……ような気がする」

「なんだよそれ」


 一奥(いちおく)は、左の人指し指で頬をポリポリ掻いた。


「じゃあ六回のゲッツーだけど、ピッチャー横の打球を、俺にはショートに任せたようには見えなかったんだけど。どうなの?」

「僕のボールだった!そう言いたいのかな?」


「あぁ。なんとなくだけど、あの瞬間ゾクッとしたんだよ。だけど幸崎(あんた)は打球を避けた。気のせいじゃないと思うんだけどな」

「ふ~ん……」


 幸崎(こうさき)は考えているが、どこか真剣みがない。一奥(いちおく)は(ま、いいか)と思い、戻ろうと振り返った。


「まぁ、そういうこと。今度は西島(せいとう)グラウンドで待ってるから来いよ!幸崎(あんた)の気持ち悪さが治ると思うぜ!じゃあな」


 一奥(いちおく)は、幸崎(こうさき)の返事を待たずにその場を去った。


「はい、ピース!」パシャ

「ん?あー!」


 戻った一奥(いちおく)が目にしたのは、笑顔でピースする名京(めいきょう)高校の斜坂(ななさか)と、作り笑顔の白城(しらき)・仟(かしら)がピースしながら写メを撮る姿だった。


「おー、いい感じいい感じ」


 出来映えを確認する斜坂(ななさか)。気に入らない一奥(いちおく)は、小走りでその場へと行く。


「斜坂(ななさか)!俺も混ぜろよ!」


「ん?一奥(いちおく)はいらないって言っただろ?……でもまぁ、いいか。特別にソロショットだ!」

「おおー!」


「じゃ、撮るぞー」


 一奥(いちおく)は左腕でガッツポーズを決めた。

 パシャ「完璧!」

「どれどれ、見せてくれよ」

「斜坂(ななさか)!ブルペンに来い!」

「あ、国井(くにい)さん。今行きまーす!じゃあ」


 斜坂(ななさか)が急いで一塁ベンチへ戻って行く。ズボンにスマホをしまうと、「ブログ楽しみにしてろよ~!」と一奥(いちおく)に言いながら去っていった。


「ちぇっ」


 出来映えを確認出来なかった一奥(いちおく)がふてくされる。その視界を、白城(しらき)と仟(かしら)が横切った。


「どうでもいいじゃねーか。後であいつのブログを見ればいいだろ?帰るぜ」

「はい」


 一奥(いちおく)は面白くなさそうに、二人の後を歩き出した。


 白城(しらき)がスマホで紀香(のりか)に電話をしながら歩いていると、ブルペンに呼ばれた斜坂(ななさか)の投げる球を捕る国井(くにい)のミット音が聞こえてきた。


 一塁側ベンチの奥にある屋根付きのブルペンを見て、一奥(いちおく)と仟(かしら)は足を止めた。


 一奥(いちおく)のウズウズする気持ちを抑えられない笑顔を見た仟(かしら)は、複雑な想いでいた。


「いい音してるぜ!早く夏に名京(あいつら)とやりてぇな。仟(かしら)!」

「そうですね……」


 仟(かしら)は下を向いた。


「あ……そっか、悪い。……お!そうだ!」

「一奥(いちおく)さん?」


 一奥(いちおく)は、電話をしている白城(しらき)を追いかけた。


「はぁ?まだ何も買ってないってなんだよ?これだから、女の買い物には付き合えねぇんだよ……」

「白城(しらき)ー!」


「姉貴、ちょっと待ってろ。なんだよ一奥(いちおく)?」


「監督に電話してるんだろ?名京(めいきょう)高校と練習試合組むように頼んでくれよ!」

「はぁ?」


「いいから頼んでくれよ!やりてぇんだ」

「ま、わからなくもないけどな」


 白城(しらき)は紀香(のりか)に、一奥(いちおく)の要望を伝えた。


 喜んだ一奥(いちおく)が振り返ると、仟(かしら)は黒いロングヘアーの髪を右手で押さえながらグラウンドを見ていた。


(わかってはいるんだけど、本当はわかってないのかな……私……)

「仟(かしら)ー!帰るぞー!」

「はーい」


 仟(かしら)はふっ切った表情で、一奥(いちおく)の下へ走り出した。一奥(いちおく)は、仟(かしら)が見せた切ない表情を思い出す。


(仟(かしら)と要(かなめ)は、夏の大会には出られないんだよな。それに……俺たちも負ければ終わりなんだ……)


「一奥(いちおく)さん?どうしたのですか?白城(しらき)さん行っちゃいましたよ?」

「俺はさ、仟(かしら)と要(かなめ)がいないとつまんねぇんだ。多分遠矢(とうや)も、みんなも。だから大会前に、名京高校(あいつら)に黒星を付けようぜ!それで名京高校(あいつら)が優勝したら、インタビューで国井(くにい)にこう言わせるんだ!愛知の仮代表として、甲子園に行くってな!」

「一奥(いちおく)さん……」


 その笑顔に、仟(かしら)は感極まった。だが涙をこらえ、笑顔で一奥(いちおく)に応えた。


「そうですね!私も、名京(めいきょう)高校に勝ちたいです」


「アハハ!まぁ、勝てるかわかんねぇけどな。行こうぜ!」

「はい!」


 二人は再び、電話でぶつぶつ言いながら歩く白城(しらき)を追いかけた。


「でも一奥(いちおく)さん」

「ん?」


「夏に名京(めいきょう)高校に負けるつもりですか?」

「あー!」

 バシッ「いてっ」


 仟(かしら)は激励の意味を込めて、一奥(いちおく)の背中を平手で叩いた。


「甲子園、行きましょうね!」

「ああ!」

アドバイス

 二人が白城(しらき)に追いつくと、電話を切った白城(しらき)が振り向いた。


「お、やっと来たか。姉貴はまだ一時間くらい来ねぇってよ」

「マジか?じゃあどうするんだ?」


「どうするも何も、待つしかねぇだろ」

「だな……」


 駐車場で待つ3人。すると、川石(かわいし)メンバー
が3人の前を横切る。白城(しらき)の視線を一奥(いちおく)が追うと、川石(かわいし)メンバーたちはバスに乗り込んでいった。


「おーい、幸崎(こうさき)ー!待ってるからなー!」


 一奥(いちおく)が叫ぶと、幸崎(こうさき)は振り返って立ち止まった。


「このバカ!」


 すると一奥(いちおく)は、パシンと白城(しらき)に平手で頭を殴られた。

 
「いてっ。なにすんだよ!」

「ツッコミ所は2つある。俺は白城(しらき)でいい。だがあの人は幸崎(こうさき)さんと呼べ!いいな?」

「わかったよぉ」


 すると、バスに乗らずに幸崎(こうさき)が一奥(いちおく)たちの下へ歩いて戻ってきた。白城(しらき)は、思わず視線を逸らす。


「君たち、帰らないのかい?」


 答えたのは一奥(いちおく)だった。


「監督が遅刻してるんだよ。まだ一時間くらい来ないってさ」


「そうか……」


 幸崎(こうさき)は、左手を顎に当てた。


「斉藤(さいとう)君。さっきの言葉だけど、あれからずっと考えていてね。もし良かったら、今から川石(ウチ)のグラウンドで見せてくれないか?」

「幸崎(こうさき)!いてっ」

「幸崎(こうさき)さんだと言っただろ!」


 一奥(いちおく)は、また白城(しらき)に突っ込まれた。それを見ていた幸崎(こうさき)は、笑っていた。


「幸崎(こうさき)さんよ。そっちがいいなら俺は構わないぜ」

「一奥(いちおく)さん!」


「違うって仟(かしら)。勝負はしねぇよ」


 仟(かしら)は幸崎(こうさき)に「本当ですか?」と問いただすと、幸崎(こうさき)は「うん」と笑顔で頷いた。


「それじゃ、バスに乗りなよ。迎えも、名京(ここ)より川石(ウチ)の方が近いしね」

「ありがとうございます。幸崎(こうさき)さん」


 白城(しらき)が頭を下げると、幸崎(こうさき)が小首をかしげた。


「君は……?」

「あ……白城(しらき)です。西島(せいとう)2年の……西島(にしじま)……白城(しらき)……」


 白城(しらき)は、少し気まずそうに上目で幸崎(こうさき)を見る。すると、幸崎(こうさき)は驚き笑いをしていた。


「君が西島(にしじま)君か!面白い後輩を持っているね」

「はい、そうっすね……」


 申し訳なさそうに下を向く白城(しらき)の姿に、幸崎(こうさき)は「フフっ」と微笑んだ。


「今は記憶がないだけで、後遺症は全くないよ。覚えてない僕が言うのもなんだけど、君は気にしなくていい。あれは試合中の事故だからね」


 白城(しらき)は、小さく二回頷いた。


「じゃ、行こうか」

「よっしゃぁ!」


 喜ぶ一奥(いちおく)に、仟(かしら)は(勝負なんだろうなぁ……)と疑っていた。すると、歩き出さない仟(かしら)に白城(しらき)が気づく。


「行くぞ、仟(かしら)」

「あ、はい」


「ところで、一奥(いちおく)は幸崎(こうさき)さんと何をする気だ?」

「感想がなんとかまでは、聞いていましたけど……」


「感想?」

「はい……」


「一奥(アホおく)が仕出かさねぇように、見張るしかねえか」

「そうですね」


二人も乗り込み、バスは川石(かわいし)高校へと向かった。