激戦の予感|リミット14話

「ヤバイよー!」
「ヤバイぜー!」

「二人とも、言葉の使い方が違います。そんなに嬉しそうに言わないで下さい」

 一塁ベンチ前でキャッチボールをする一奥(いちおく)と要(かなめ)は、腕のストレッチをする仟(かしら)も含めて試合が待ちきれない様子だった。


「仟(かしら)、そんな事言いながらお前だって興奮してるんだろ?いよいよ梯(かけはし)との試合だぜ?なぁ要(かなめ)」

「ヤバヤバいよー!」

 仟(かしら)が二人に苦笑いする中、要(かなめ)の投げたボール捕った一奥(いちおく)が一塁ベンチを見た。


「あ!遠矢(とうや)。そういえば昨日、監督は何も言わなかったけどさ~、先発メンバーってどうなってんだ?」

 遠矢(とうや)は一塁ベンチに座り、ミットの手入れをしながら状態を確認していた。


「まぁ、誰一人レギュラーって言われてないしね~。仟(かしら)、メンバー予想ってできる?」

 パンとミットを右手で叩いた遠矢(とうや)は、ストレッチをする仟(かしら)と目が合った。


「そうですねぇ。私なら一番センター要(かなめ)」
「マズイよー!」

 仟(かしら)は嬉しそうに叫んだ要(かなめ)を見た。


「だから要(かなめ)。言葉の意味が違うから!」

「アハハ、仟(かしら)に怒られちゃった」

 ワンヒットサドンデスから一ヶ月。双子の仟(かしら)と要(かなめ)は、マネージャーではなく正式に選手として毎日練習していた。

 ハイテンション過ぎる要(かなめ)に困った様子の仟(かしら)だが、その気持ちは仟(かしら)が一番よくわかっていた。

 高校で野球が出来ないと思っていた頃と比べれば、今は天と地程の差がある。それが試合ともなれば、二人が笑顔でグラウンドにいるのは自然な事だった。

 オーダーを知りたがる一奥(いちおく)は、要(かなめ)とキャッチボールを続けながら仟(かしら)を見た。


「なぁ仟(かしら)。二番は俺か?」

「一奥(いちおく)さんは九番です」

 すると、一奥(いちおく)と要(かなめ)の顔が再び笑顔になった。


「ヤバイぜー!なぁ要(かなめ)!」
「おいおいぬきぬきだね!」

 興奮する二人を見た仟(かしら)が「え?」と首をかしげると、「仟(かしら)」と呼んだ遠矢(とうや)の声に、仟(かしら)は振り向いた。


「今の二人は制御不能。ちなみに、油断して走ってると一奥(いちおく)が要(かなめ)に追い抜かれちゃうって意味ね」

 ミットの内側と外側をクルクルと見ながら微笑む遠矢(とうや)の姿に、仟(かしら)は苦笑いをした。


「遠矢(とうや)さん、よくわかりましたね……」

「そうかな?双子の仟(かしら)の方がわかりそうだけど……」
「わかりませんよ!……もぅ、ついでですから言いますけど、遠矢(とうや)さんは八番です」

 サラッと話した遠矢(とうや)にツッこんだ仟(かしら)は、腕組みをして目を閉じた。


「お?」
「要(かなめ)!」


 要(かなめ)と一奥(いちおく)の声に反応した仟(かしら)が目を開けると、今度は遠矢(とうや)が笑いだした。


「アハハ。八番なら僕も真剣に走らなきゃ。なら二番は仟(かしら)だね?」


 遠矢(とうや)と目が合った仟(かしら)は、口を丸くした。


「どうしてわかったのですか?」

「あ!俺もわかった!!」


 笑顔で叫んだ一奥(いちおく)を仟(かしら)が見ると、一奥(いちおく)はイタズラ顔をしていた。


「仟(かしら)、お前ズルいな。それ要(かなめ)に抜かれない為だろ?」
「違います!!」


 仟(かしら)のツッこみに驚いた一奥(いちおく)は、「一奥(いちおく)」と声を挟んだ遠矢(とうや)を見た。


「仟(かしら)は器用なんだよ。元々キャッチャーじゃないしね」

「それマジか!?」

 驚いた一奥(いちおく)だったが、仟(かしら)を見ると微笑んでいた。


「はい。私はセカンドが多かったです」

「へぇ」

 感心した一奥(いちおく)に、仟(かしら)は笑顔で返して予想メンバーの話を続けた。


「三番はショートで神山(かみやま)さん。四番はファーストで杉浦(すぎうら)さん。五番サード村石(むらいし)さんに、六番ライト鶴岡(つるおか)さん。最後は七番レフト小山田(おやまだ)さんですね」

 ベンチに座って静かに聞いていた遠矢(とうや)は、「僕と同じだね!」と、微笑みながら仟(かしら)に言った。

 ミットを横に置いた遠矢(とうや)が立ち上がると、一年生の四人は先輩たちが来る前に簡単なグラウンド整備と石灰でラインを引く作業を始めた。

 一通り試合の仕度を終えて、四人は外野グラウンドの小石をバケツに拾っていた。すると、挨拶代わりの一言がグラウンドに響いた。


「勝負だ!一奥(いちおく)」

「お?この声は杉浦(すぎうら)先輩……って、勝負!?」

 立ち上がりながら声を出した一奥(いちおく)と三人は、レフト方向を見た。すると杉浦(すぎうら)は、右手でバットを担ぎながらドカドカと外野グラウンドを歩いて四人に近づいてきた。


「今日こそ一奥(おまえ)からホームランを打つ!」

「いや、杉浦(すぎうら)先輩。今日は試合で味方だから……」

 すると、杉浦(すぎうら)は目を丸くした。


「そうなのかぁ?」
「そう!そうなんだよ」

 一奥(いちおく)に指を差された杉浦(すぎうら)は、バカめとニヤついた。


「ガハハ!一奥(いちおく)、今日は許してやる。そのかわり、俺のホームランボールが探しやすいようにバックスクリーンの草むしりもやっておけよ!」

 一塁ベンチへ歩き出した杉浦(すぎうら)の背中に、一奥(いちおく)が叫んだ。

「除草剤撒いたっつーの!」

「ガハハ!」

 一奥(いちおく)を無視して、杉浦(すぎうら)は笑いながら一塁ベンチへ行ってしまった。

 このやり取りを毎日見ている遠矢(とうや)、仟(かしら)、要(かなめ)の三人は、一奥(いちおく)は杉浦(すぎうら)先輩が好きだなぁと思っていた。

三人の視線に、一奥(いちおく)気づいて振り向いた。


「ん?なんだよ?遠矢(とうや)」

「なんでもないよ!ね?」

「はっ、はい!」
「らぶらぶ」

 笑ってごまかす三人を見た一奥(いちおく)は、(よくわかんねーな……)と後頭部に両手を回していた。


試合前の異変

 しばらくして、次々に先輩たちがグラウンドに集まって来る。四人はグラウンド整備を終わりにして、一塁ベンチへ向かった。

 アップを終えてそれぞれが試合の準備を始める。すると、レフト方向からユニフォーム姿の紀香(のりか)監督が、帽子を片手に歩いてきた。


 白い大文字のエスと小文字のティーが中央で重なるスカイブルーの帽子。白を基調としたスカイブルーの縦縞ユニフォーム。その胸には、同色で西島(せいとう)と刺繍(ししゅう)されたローマ字。

 空をイメージして作られたユニフォームは、正に常勝と上昇を表し、頂点を目指す意味が込められていた。


 西島(せいとう)野球部が大好きで、初めて憧れの西島(せいとう)ユニフォームに袖を通した紀香(のりか)監督のユニフォーム姿は……


 スタイルが良すぎてダボダボだった。

 何事もなかったかのように、一塁ベンチでメンバーの前に立つ紀香(のりか)監督だったが、皆笑いを堪えるのが精一杯だった。


「なによ、その顔は!言いたいことはわかるけど、特注品が間に合わなかったのよ」


 最初に吹いたのは、やはり一奥(いちおく)だった。


「監督…その姿反則だろ……ぶっ、ブハッ」

「うるさいわね!一奥(いちおく)。……わかったわ。それならあなた、今日の先発は外れてもらうから。仟(かしら)、一奥(いちおく)抜きでメンバーを決めてくれる?」

「はい……わかりました」


 若干動揺する仟(かしら)がベンチに座ってメンバー表を書き始めると、一奥(いちおく)が話を続けた。


「監督。やっぱりメンバー決めてなかったんだな……」

「当たり前でしょ!あなたたちに任せるって、何度言わせるのよ!」

「なら監督、俺に投げさせてくれよ!さっき笑ったのは謝るからさ」


 すると、紀香(のりか)監督は腕組みをして息を漏らした。


「……ダメよ」
「なんでだよ!」


『お願いしまーす。』


西島(せいとう)メンバーがライト方向を見ると、対戦相手の木村(きむら)監督率いる梯(かけはし)高校の選手たちが姿を現した。そのメンバーを見た一奥(いちおく)は、目を疑った。


「え……?」

「わかった?一奥(いちおく)。そういうことよ」