超えられない壁|リミット10話


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 白城(しらき)に気づいた紀香(のりか)監督は、ニコニコしている要に向かって叫んだ。

「要(かなめ)!」
「はい!」

 ビックリした要(かなめ)は、直立不動になった。

「監督。私が白城(しらき)さんを連れて来ましたぁ!」

 元気よく右手を上げて答えた要(かなめ)に、(空気を読みなさいよ……)と紀香(のりか)監督はため息をついた。

「あれ?監督呆れてる?じゃあさっきの微笑み返しは、よくやったわ要(かなめ)!じゃなかったの?あれあれ?」

 要(かなめ)は、誰に話す訳でもなく一人言のように話ながら慌てた。紀香(のりか)監督は、目を閉じて左手をおでこに当てた。

(そういうことか……あの時すでに白城(しらき)はいたのね)

「これもあんたの仕業か?姉貴」

白城(しらき)が不機嫌そうに話すと、「えっ?」と驚いたのは遠矢(とうや)だった。

「監督が、白城(しらき)さんのお姉さんなんですか?」

 すると、白城(しらき)は目が合った遠矢(とうや)を睨んだ。

「なんだよ?」

「あ、いえ」

 遠矢(とうや)は苦笑いをしながら姿勢を前へ戻した。

(まさか、監督に7つ年下の弟がいたとはね……)

 グラウンドに遠矢(とうや)が目を移すと、白城(しらき)の怒った声が背中に響いた。

「姉貴がどんな手を使っても、俺はこんな野球部に戻るつもりはないからな!」

 ふてくされる白城(しらき)の態度に、紀香(のりか)監督は再びため息をついた。

「まぁいいわ。白城(しらき)、せっかく来たんだから、この勝負を終わらせなさいよ。あなた昨日負けたんだし、それくらいいいでしょ?」

「チッ……」

 舌打ちしながらも、西島白城(にしじましらき)は座ったまま動かなかった。

 突き放すような言い方をした姉の紀香(のりか)監督だったが、半年以上どうしようもなかった弟の白城(しらき)の様子が少しずつ変わってきた事を実感し、わすかながらに微笑んでいた。

「お前、遠矢(とうや)とかいったな?」

 白城(しらき)に呼ばれた遠矢(とうや)が、再び振り向く。

「ええ。そうですけど、どうしました?」

 不真面目そうな遠矢(とうや)の態度に、白城(しらき)は怒りをあらわにした。

「どうしましたかじゃねぇ。とぼけんな!お前は後何回盗むつもりなんだよ?」

 白城(しらき)の問いに、今度は紀香(のりか)監督が振り向いた。

「盗むって、遠矢(とうや)が何を盗んだの?」

 すると、紀香(のりか)監督は隣で苦笑いする遠矢(とうや)の姿を目にした。

「白城(しらき)さんにはバレてましたか。僕の悪いクセなんですよ。でも、仟(かしら)のリードは勉強になりますので」

「食えねぇ奴だな、お前」


「まぁ、そう言わずに。一奥(いちおく)も同じような事してますから」

「フッ…仟(かしら)もナメられたもんだぜ」

 そんな一塁ベンチの会話が終わる頃、投球練習を終えたバッテリーはマウンドで話していた。

「やりたい事はわかったけどさ……。仟(かしら)、次は杉浦(すぎうら)先輩だからな?怒られても俺は知らねぇぞ?」

「構いません。一奥(いちおく)さんには関係ありませんから」

 ホームへ戻る仟(かしら)の背中を見た一奥(いちおく)は、(やるしかねぇか!)と、二・三度屈伸をした。

(昨日、要(かなめ)と勝負してて良かったぜ)

「よっしゃー、来いや!一奥(いちおく)」

 やる気満々の杉浦(すぎうら)に対し、ピッチャーの一奥(いちおく)は仟(かしら)に言われた通りの投球を見せた。

(この双子、本当に面白れぇ)「杉浦(すぎうら)先輩、ごめんねぇ」 

「なっ?」

 一奥(いちおく)が投じた球は、ただの手投げ。驚いた杉浦(すぎうら)は、「キッ」と歯を食い縛ってフルスイングに入る。

 そして投げた一奥(いちおく)は、すぐに振り返って二塁ベース付近まで走った。再びホームへと構えると、超スローボールがアウトコース低めギリギリに決まろうとしていた。

 怒りでガチガチに力んだ杉浦(すぎうら)が引っかけると、素早くマスクを外した仟(かしら)が「セカンド!」と叫んだ。

 一奥(いちおく)が二遊間に入る事により、セカンドはファースト寄りに位置していた。仟(かしら)は、打ちごろの球を低めにコントロールする事により、意図的にセカンドゴロを打たせた。平凡に転がるゴロを、セカンドは軽くさばいた。
 パン「アウト!」

「ちょっと待て!一奥(いちおく)」

 一塁を駆け抜けた杉浦(すぎうら)は、二塁付近からホームへ歩く一奥(いちおく)へ叫んだ。

「だから先に謝ったじゃん……」

 一奥(いちおく)はグローブで顔を隠し、怒りながらベンチへと歩く杉浦(すぎうら)の視線を避けていた。

 怒った杉浦(すぎうら)に触発されたのか、これを見た三塁ベンチは黙っていなかった。ネクストバッターズサークルの村石(むらいし)がバッターボックスへ向かう途中、キャプテンの神山(かみやま)の声に足を止めて振り向いた。

「村石(むらいし)!」

 その神山(かみやま)と目が合うと、村石(むらいし)は(わかってる、俺に任せろ)
と、ニヤリと笑みを返した。

「今度は俺だ!一奥(いちおく)、スタンドに放り込んでやるぜ!」

「おぉ……村石(むらいし)先輩までこえぇ顔してるし」

 一奥(いちおく)は苦笑いをしたが、投球モーションに入ると嬉しそうに微笑んだ。

(でも……サインは変わらないんだよな!)

 仟(かしら)のノーサインに対し、一奥(いちおく)は再び超スローボールを投げる。

「もういっちょ、いってみますかぁ!」

 投げ終えた一奥(いちおく)は、再び二塁ベース付近へ走った。しかし振り返ってバッターの村石(むらいし)を見ると、村石(むらいし)はセーフティバントの構えをしていた。

(バカめ!一奥(いちおく)、マウンドががら空きだぜ!)

 バッターの村石(むらいし)がバントをした瞬間、走り出そうとした足が「なにぃ!」という声と共に止まった。驚いた村石(むらいし)が目にしたのは、マウンド方向にいるハズもないキャッチャー仟(かしら)の姿だった。

 仟(かしら)は転がったボールをシングルキャッチすると、素早く一塁へと投げアウトにした。

 ベンチで見ていた遠矢(とうや)は、さすがにこのプレーには驚いていた。

(セーフティバントはどう処理するのかと思っていたけど、まさか自分で処理する計算だったとはね。これは間違いなく仟(かしら)の想定内。超スローボールを当てただけの反発力のないボールは転がりにくいし、仟(かしら)はあらかじめ中腰で準備をしていた。転がせばいいと村石(むらいし)さんに油断はあったけど、おそらくそれも仟(かしら)の計算通り。でも、この策を可能にした一番の驚くべき点は、ゴロをさばいた仟(かしら)の守備能力の高さだね……)

 遠矢(とうや)が誉めた仟(かしら)のジャンピングスローは、美しさ以上に輝いていた。その姿に、一奥(いちおく)も見とれてしまっていた。

「すっげぇ、マジかよ!キャッチャーのジャンピングスローなんて初めて見たぞ。仟(かしら)は忍者か?くのいちなのか?」

「一奥(いちおく)さん、ツーアウトです」

 クールに、そして何事もなかったかのようにマスクを着ける仟(かしら)だったが、その顔は少し照れていた。だが、自然に野球を楽しみ始めている自分に気づき、仟(かしら)は無理矢理気持ちを抑えて座った。

(そうだ!私はプレイヤーじゃない……マネージャーなんだ。要(かなめ)のようになってはいけない!)

 次のバッターは、仟(かしら)の守備を警戒してプッシュバントをしてきた。しかし、それも仟(かしら)の計算の内だった。プッシュしたことにより、今度は平凡なゴロとなってしまった。

「任せろ!」

 一奥(いちおく)は仟(かしら)の見せる野球に触発され、セカンドがさばく打球を横取りした。

「アウト、チェンジ」

 塁審の右手が上がり、一奥(いちおく)は「へへっ」とそのまま一塁ベンチへ走りながら仟(かしら)を見た。

「やったな!仟(かしら)」

「あの、一奥(いちおく)さんはマウンドですよ?」


「あー!そっかそっか。またやっちまった。つい嬉しくなっちまって、間違えたわ。アハハ」

 マウンドへ戻る楽しそうな一奥(いちおく)を、仟(かしら)はこの勝負で初めて微笑みながら見ていた。だが一塁ベンチへ戻る際、仟(かしら)は再び気持ちを入れ換えていた。

(絶対に勝つんだ……それが私の使命だから)

仟の本気と遠矢の賭け

 一塁ベンチへ歩いてくる仟(かしら)を見ながら、遠矢(とうや)は笑顔で立ち上がった。

「本当に三球で終わった。仟(かしら)凄いなぁ!」

「おいテメェ!誉めてんじゃねーぞ遠矢(とうや)。後何回だ?」


「白城(しらき)さん、仟(かしら)の限界はまだみたいですよ?では」

 ホームへ向かった遠矢(とうや)を見ながら、白城(しらき)はめんどくさそうに両手を膝に当てて立ち上がった。

「姉貴、俺は帰るぜ……」

 その声に紀香(のりか)監督が振り向くと、「えー!」と残念そうに言った要(かなめ)に目がいく。

「白城(しらき)さん帰っちゃうのー?」

 要(かなめ)が引き止めようとしたその時、ベンチに戻ってきた仟(かしら)が白城(しらき)のユニフォーム姿に気づいて驚いた。

「白城(しらき)さん!?どうしてここにいるんですか?」

「はぁ?うるせぇよ。昨日仟(おまえ)があいつらと勝負するなんて言うから、要(かなめ)に呼ばれたんじゃねぇーか。下手くそな野球の尻拭いに来たんだよ」


「そうでしたか」
 
「ったく。にしてもだな、あんなスローボールを投げさすキャッチャーがどこにいるんだ?」

 白城(しらき)が呆れていると、要(かなめ)が嬉しそうに「ここ、ここー」と仟(かしら)を指差した。

「要(かなめ)、お前もうるせぇ」

 横目に要(かなめ)を睨む白城(しらき)にダメ出しされた仟(かしら)は、うつむいた後白城(しらき)を強い眼差しで見た。

「わかりました……。次の回から本気でやります」

 言い放った仟(かしら)を目にした白城(しらき)は、「フッ」と笑って目を閉じた後、ゆっくり座った。

「まぁ、別にどうでもいいけどさ」

 すると白城(しらき)は、紀香(のりか)監督の笑いながら話す声を耳にして目を開けた。

「白城(しらき)、フフッ、あなた帰るんじゃなかったの?」

「なっ!チッ……好きにしろって言ったのは、姉貴だろ」

 後頭部に両手を回し、白城(しらき)目を逸らした。その姿に紀香(のりか)監督は、何かが始まる予感がした。

「そうだったわね……悪かったわ」

 嬉しそうな紀香(のりか)監督がグラウンドへ振り返ると、投球練習を終えたバッテリーがマウンドで会話をしていた。

「遠矢(とうや)。まさかとは思うけどさ、俺は今からスローボールを投げるのか?」

「え?アハハ、それはないよ。まぁ、僕は仟(かしら)に色々見せてもらったからね。だからアメリカからのおみやげを、お礼に見せてあげようと思っただけだよ」

「あー、遠矢(とうや)に仕込まれたアレか!いいぜ。へへっ、わかった」


「じゃ、一奥。サイン通り頼むよ」

「あぁ、任せとけ!」


 遠矢(とうや)がホームへ戻って座り、七番の鶴岡(つるおか)がバッターボックスに入った。

「遠矢(とうや)、俺にもスローボールか?」

「いえいえ、あれは仟(かしら)にしかできないプレーですから。……でも、僕もある意味遅いかもしれませんよ?」


「ある意味?また変な言い方しやがって」

 呆れ顔の鶴岡(つるおか)が構える。一奥(いちおく)の振りかぶる姿はそれまでと変わらないが、その上半身が倒れる姿を目にしたバッターの鶴岡(つるおか)は、内心驚いた。

(アンダースローだと!)

 この、めったにお目にかかれない左のアンダースローは只者ではなかった。遠矢(とうや)はミットを真ん中に構えているが、ど真ん中へ向かうボールには激しいバックスピンがかかっている。

 来そうで来ない独特のボールに、鶴岡(つるおか)はタイミングを外され見送った。

「これは……」

 呆然と呟いた鶴岡(つるおか)に対し、遠矢(とうや)は間髪入れず次のサインを出す。

 またも左のアンダースローから繰り出される希少なボール。変わらず遠矢(とうや)はど真ん中に構えているが、今度はボールが伸びた。

 バッターの鶴岡(つるおか)は、同じ球だと認識してタイミングを合わせる。そして捉えたと思いながらスイングした。

 しかし、ボールはベース手前で鋭く落下。鶴岡(つるおか)のバットは空を切った。

(なっ?初球と全く同じ回転と軌道だった……なのに今度はボールが落ちただと?)

 信じられない表情の鶴岡(つるおか)が、ハッと気づいて遠矢(とうや)を見た。

「今のはツーシームか?」

「さすが鶴岡(つるおか)さんですね。ちなみに初球はフォーシームです。ただ、一奥(いちおく)が投げると魔球に近いですね」

 あっさりとした態度の遠矢(とうや)に、鶴岡(つるおか)は「マジかよ……」と呟いた。 

(こいつ……今サラッと言ったが、こんなにタイミングの合わない球はない。ただでさえ左のアンダースローだ。くそっ)

 構えた鶴岡(つるおか)に対し、投球モーションに入った一奥(いちおく)もニヤリと笑った。

「へへっ。行くぜ!鶴岡(つるおか)先輩」

 見た目ではわからないボールに対し、鶴岡(つるおか)がくらいつく。しかし、全くタイミングは合っていなかった。

(今度はもっと遅い……待ちきれない)「くそぉ!」

 パン「ストライクバッターアウト」

「オッケー、一奥(いちおく)。ワンアウト!」

 球審の声にリズムを合わせるように、遠矢(とうや)はボールをファーストへ回した。バッターの鶴岡(つるおか)は、完敗といった表情で打席を後にした。

 続く八番は、セーフティバントを試みた。しかし無理矢理タイミングを合わせた結果、平凡なピッチャーゴロでアウトとなった。

 九番も沈むツーシームに食らいついたが、バットの先に当てるだけのショートゴロに終わった。


パン「アウト、チェンジ」

 ファーストミットの心地いい音と、塁審の声が響く。

「よっしゃ!」

 ガッツポーズをした一奥(いちおく)は、テンションそのままに一塁ベンチに座る仟(かしら)へ叫んだ。

「次は仟(かしら)だ!早く来い!」

 その声に、仟(かしら)は自然と微笑んでいた。 

 白城(しらき)に本気でやると宣言し、遠矢(とうや)の真ん中しか使わないリードと一奥(いちおく)の笑顔に引っ張られ、仟(かしら)は野球大好き少女に戻っていた。

 そして気持ちを抑えきれず、嬉しそうにマウンドへと飛び出した。

 夢中になっている彼女自身は気づいていない。だが、仟(かしら)の後ろ姿を見ていた紀香(のりか)監督は、半年前に自分自身が思い描いていたイメージが出来つつあると確信した。

 マウンドに着いた仟(かしら)は、まるで別人のような笑顔になっていた。

「一奥(いちおく)さん、遠矢(とうや)さんばかりズルいです。ムービングボールがあるなら言って下さい」

「ん?そうだっけ?まぁ、聞かれなかったし……」

 とぼけた一奥(いちおく)を見た仟(かしら)は、右手を口に当てて「ウフフッ」と笑った。そんな仟(かしら)を見た一奥(いちおく)も、嬉しくなって笑ってしまった。

「一奥(いちおく)さん」

「ん?」

 仟(かしら)の顔が、野球を本気で楽しむ表情に変わった。

「私に出来る最高のリードをしますので、よろしくお願いします」

「へへっ、それは楽しみだな。でもさ、それだとこの勝負は終わりそうにないな」

 一奥(いちおく)の明るい声に返事をせず、仟(かしら)は一塁ベンチの遠矢(とうや)を見た。気づいた一奥(いちおく)も遠矢(とうや)を見ると、仟(かしら)は少し切なそうにささやいた。

「終わりますよ……」

 仟(かしら)の声に違和感を覚えた一奥(いちおく)だったが、一塁ベンチの奥に座る白城(しらき)の存在に気づいた。

「10人目は白城(あいつ)ってことか」

「そういうことです」

 静かにホームへと戻る仟(かしら)の目つきが厳しくなる。この時仟(かしら)は、少し複雑な心境だった。

 仟(かしら)が座り、バッターの七番鶴岡(つるおか)が打席に立つ。だが、鶴岡(つるおか)は正直参っていた。前の三振を引きずったままの低いテンションで、仟(かしら)に話しかけた。

「なぁ、お前が一奥(いちおく)とマウンドで話したって事は、またあれが来るのか?」

「アレって、アンダースローからの投げ分けでしたら来ませんよ?私は外だけ使います」

「外だけ?」

 その時一塁ベンチでは、座った遠矢(とうや)と白城(しらき)がグラウンドを見つめながら話していた。

「おい遠矢(とうや)、この回の仟(かしら)は本気だとさ」

「そうですか。という事は限界ですね……それなら白城(しらき)さん、賭けをしませんか?」


「賭け?」

「はい。この回にヒットが生まれるのかどうか?です。もちろん白城(しらき)さんが先に選んでいいですよ」

 すると白城(しらき)は、面白くなさそうに両足を前のベンチの背もたれに乗せた。その足に、前へ座る遠矢(とうや)が気づく。その瞬間、白城(しらき)の怒り気味の声が背中に響いた。

「ナメんな。それじゃ賭けにならねぇだろ。打線は下位!一奥(いちおく)は変な球を投げる!仟(かしら)も本気だと言っただろ!」

「それで白城(しらき)さん、どちらに賭けますか?」

 微笑みながら振り向いた遠矢(とうや)に、白城(しらき)は呆れた。

「チッ、しょうがねぇなぁ。生まれる訳がねぇ!これで満足か?」

「大満足ですよ。ではヒットが生まれたら、10人目のバッターとして勝負してくださいね」

 笑顔の遠矢(とうや)を見た白城(しらき)は、「フッ」と笑いながら立ち上がった。

「ナメられたもんだな。姉貴、これ借りるぜ」

「ん?」

 白城(しらき)は昨日の木製バットではなく、金属バットを手にしてベンチ前へ出た。紀香(のりか)監督は、その姿を「ふ~ん……」と見ていた。

(白城(しらき)が素振りね……ということは、この回で勝負に決着がつく。本当に仟(かしら)が打たれるの?)

 パン「ストライク!バッターアウト!」

 ミットと球審の声に、紀香(のりか)監督が目を向ける。すると、調子のいい一奥(いちおく)の声がグラウンドに響いた。

「よっしゃ!ナイスリードだ仟(かしら)。ドンドン行こうぜ!」